【コラムvol.35】
彼女の愛の核心は、
彼のキツい体臭かもしれない。

「ハッテンボールを、投げる。」vol.35  執筆/伊藤英紀


もし、おせっかいにも
誰かの相談にのるとして、
それなりに役立ちたいと思うならば、
問題に答えようとしても、
有効な助言にはだいたいならない。

問題そのものが、
答えようのない立て方に
なっていることが多いからだ。

「年収200万円ちょっとの
彼からプロポーズされた。
結婚しても大丈夫かな?」

答えようがない。
わかんないですよね、そんなの。
しらんがな。

彼の人間としての属性が、
現在年収200万円である、
ということ以外まったく不明だ。
彼女と彼の思いの質量も重量も
不明である。
ふたりのビジョンや決意も見えない。

「年収200万円人間は、
結婚に値するか?」
「結婚に値する
男の年収はいくらか?」
彼女はそう聞いているのである。

だから、相談された側が
まずできることは、
きみはそう聞いているんだけど、
と彼女の問題の立て方を、
上記のような設問の仕方に
変えて再提示することだ。

相談とは、
答えを返すことではなく、
設問を返すことだからだ。

すると、
「う~ん、そんなそっけない、
にべもない悩みじゃなくって」と、
彼女が抱える状況や問題、
ふたりの愛の物語は、
受け応えのなかで、
より具体的に展開していくだろう。

もしかすると彼女は、
彼のキツめの体臭の虜で、
「あの香しさからは離れられない」
とぞっこんなのかもしれない。

「体臭が与えてくれる幸福なめまいが、
年収200万円の将来不安を凌駕するなら、
メロメロ結婚に踏み切ればいい。
どうなの?」

そんな設問を投げることになる。

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