変と不変の取説 第46回「狂気の悪口社会」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第46回「狂気の悪口社会」

前回、第45回は「腹と気が生み出す力」

安田

最近のネットニュースを見てると、悪口のオンパレードですよね。ちょっと視聴率が悪いだけで「この女優さんは終わった」とか。

なんとか太鳳ちゃんのお姉ちゃんとか。ミスグランプリ取った人。

安田

土屋太鳳さんのお姉さん。彼女も悪口いっぱい書かれてますね。

メディアはそういうのが好きなんですよ。PVも稼げるし。

安田

それにしても悪口報道が多すぎますよ。個人が書いてるならまだしも、メディアが公のニュースとして悪口を書くんですよ。

確かにそうですね。

安田

しかも個人攻撃ですからね。

組織への悪口は昔からありましたけどね。「この業界は」とか「この会社は」とか。

安田

それならまだいいんですけど。

メディアが個人攻撃してたのは政治家ぐらいでしたね。昔は。

安田

今は逆に、政治家への個人攻撃が少なくなりました。

今は芸能人とか、スポーツ選手とか、一般の人まで叩きますからね。

安田

そうですよ。「松坂やめろ」とか「給料泥棒」とか、すごいですよ。これはメディアの質が落ちたってことなんですか?

メディアが考えてるのは視聴率を上げること。つまり視聴者が求めてるってことなんでしょうね。

安田

視聴者が悪口を求めてるってことですか?

マスコミが誰かの悪口を書いてくれると、それが呼び水になって書きやすくなるじゃないですか。

安田

呼び水ですか?

悪口に便乗できる。つまり便乗させやすくしてるんでしょうね。

安田

悪口をどんどん書かせるために、先に悪口を書いてるってことですか。

そうです。コメント書いてくれると更に見られるので。コメントの数が増えれば増えるほどいいんですよ。

安田

それが悪口でも?

何でもいいんでしょうね。数さえ増えれば。

安田

メディアってもうちょっと崇高な、社会正義的なものが必要だと思うんですけど。

いや、それはそれで、あると思いますよ。

安田

あるんですかね。

社会的な署名運動を取り上げた番組とか、あるじゃないですか。

安田

まあ報道番組とかはそうですね。バラエティー番組に比べればマシかもしれません。

バラエティーは視聴率重視なので。

安田

それにしても酷くないですか。この間たまたまテレビつけたら、和田アキ子さんの番組に泉ピン子さんが出てまして。

はい。

安田

ZOZOの前澤さんが辞めたって話で、めちゃくちゃ悪口言ってるわけですよ。

和田アキ子が?

安田

和田アキ子も言ってましたけど。泉ピン子さんが。

ピン子ちゃんが?

安田

はい。「私はこの人が嫌いだ!」ってずっと悪口言ってるんですよ。芸能人ですらない一般の経営者に公の電波を使ってこんな悪口言っていいのかって。

すごい個人攻撃ですね(笑)

安田

完全に一線を越えちゃってるように見えるんですけど。でも他の出演者もそれ聞いて盛り上がってるし。

麻痺してきたんですかね。

安田

麻痺してるというか、もはや狂ってますよ。

誰も発言しなくなっていきますよね。あんなことやってると。

安田

あんな袋たたき見せられたら、何もやれないし何も発言できないですよ。でも視聴率稼ぐためだけに、あそこまでやりますかね?

あとは“はけ口”でしょうね。

安田

はけ口?

会社もそうなんですけど。抑圧されて不満がたまってると、ガス抜きのときに悪口になっちゃうんですよ。誰かの攻撃になっちゃう。

安田

だったら抑圧した相手の悪口を言えばいいじゃないですか。

会社って「この人が悪の権化」みたい人がいないんですよ。なんとなく全体がそういう空気をつくってて正体不明なんです。お化けみたいなもの。

安田

お化け?

はい。なので攻撃する対象がいないんですよ。

安田

対象がいないから個人攻撃になるんですか?

そうです。日本全体がモヤモヤしてるので、誰か“はけ口”の対象になる相手が欲しい。

安田

なるほど。

日本人全員が抑圧されてるんですよ。

安田

全員がはけ口を求めてると。

「本当はこうしたい」という思いを素直に発信できてないことの裏返し。

安田

本来は記者として書くべき記事を、個人の感情で書いてるように見えるんですけど。

それ、すごく感じますね。

安田

個人として発信するんだったらいいですけど。記者として書いてるのに個人の感情を混ぜていいのかなって。

記者さんたちも溜まってるんですよ。自分のいる新聞社とか雑誌社とかに対して。

安田

その“はけ口”として悪口記事を書いてるってことですか。ひどいですね。

悪口を書いてスッキリするけど時間が経てばまた戻る。だから何回も麻薬のようにやり続けることになる。

安田

ZOZOの前澤さんなんて、社長やってる時は「辞めろ!」って言われてたのに、辞めたら辞めたで「逃げやがった」みたいに言われて。

まあ、自分勝手ですよね。人のことなので無責任なんですよ。

安田

こういう個人攻撃って昔から日本にあるんですか?

昔は普通の人が公に発言する場がなかったですから。

安田

じゃあ昔は我慢してたんですかね。それとも現代社会のほうがストレスが大きいんですか。

今の方がぜんぜん大きいんじゃないですか。

安田

それはなぜですか?安くて美味しい食べ物も増えたし、おしゃれな服も安く買えるし、時給も上がってるし。スマホもあるし、ゲームもあるし、何が不満なんですか?

ブータンの幸福度がガクガクガクって、いま下がってるんですよ。

安田

え!?世界一幸福な国なのに。

原因はスマホなんですよ。

安田

スマホですか。

スマホから情報が入っちゃうので「あっちの方がすごいやん」とか「こんなのあるんや」とか知っちゃった。

安田

ってことは、知らないときのほうが幸せだったと?

そりゃあ幸せですよ。僕らもブータンと一緒。みんな知っちゃったから。

安田

じゃあネットでつながって、他を知れば知るほど・・・

不幸になっていく。

安田
でも、もう戻れないですよね。
戻れませんね。スマホを持つなって言えませんから。次のステージに進むしかないんですよ。

場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


| 第1回目の取説はこちら |
第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

感想・著者への質問はこちらから