第253回「大手商社の現在と未来」

この記事について

2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。

前回は 第252回「才能を潰しているのは誰?」

 第253回「大手商社の現在と未来」 


安田

大手商社が過去最高益だそうで。三菱商事も三井物産も。

石塚

三菱商事は純利益で1兆円を超えてます。

安田

どういう構造でこんなに利益が出るんですか。

石塚

まず資源高がモロに利益に直結してる。商社って基本的に海外の資源を買い付けて日本に持ってくるビジネスなので。

安田

なるほど。資源高ですか。

石塚

単価が高くなれば高くなる分だけ、儲けも増える。

安田

安いうちに買っておいた資源が値上がりしたってことですよね。

石塚

そう。いくらになっても買わざるを得ないので。

安田

買わざるを得ないんですか。

石塚

たとえばエネルギーなんて、どんなに高くても買わざるを得ないじゃないですか。

安田

確かに。

石塚

だから儲かるんですよ。

安田

国民の生活を考えると、あまり喜べるニュースではないですね(笑)

石塚

そうですね(笑)あとは為替ですよ。ドル建てだと今は何でも儲かるから。そのかけ算で商社は本当にいい状況です。まあ長続きはしないけど。

安田

長続きしませんか。

石塚

しませんね。原油高はピークを過ぎているし、さっき安田さんが言ったとおり、利用者がついていけないですよ。

安田

ついていけなくても、ガソリンなんて買わざるを得ないじゃないですか。

石塚

いずれ国から「ちょっとおまえらいい加減にしろ」という話になる。

安田

なるほど。ちなみに商社って輸出もすると思うんですけど。そこの為替損失はどうなんですか。

石塚

商社を水先案内人にしてる輸出案件って今は少ないんですよ。新興国以外ないでしょう。ぜんぶ直接やってる。

安田

つまり商社の仕事は基本的には輸入なんですね。

石塚

輸入ですね。輸入と事業投資。食料なんてほとんど輸入だから。

安田

食料自給率が低いってよく言われますよね。これはホントなんですか。

石塚

恐ろしい話なんですけど、輸入なしで賄える食料ってお米ぐらいなんですよ。

安田

ニワトリや豚もたくさんいますけど。

石塚

いやいやいや(笑)ぜんぜん足りないです。

安田

足りないですか。

石塚

むしろクオリティの良いものは海外に持っていかれる。日本製の卵がタイでめちゃくちゃ売られてるの知ってますか。

安田

え!日本の卵がタイで?

石塚

まあ総合商社はそんな小さなビジネスはやってないけど。

安田

投資家のバフェットさんが日本商社の株を買っているそうで。すごく良い投資先だって。日本商社の株は買いなんでしょうか?

石塚

これから買ってもしょうがないですよ。みんな過熱したところでバフェットはいつの間にかいなくなると思う(笑)

安田

なんと。

石塚

そりゃそうでしょう。だけどバフェットが日本市場や日本企業を評価をしてるのは、ちょっと嬉しいですよ。

安田

日経平均株価も上がってますよね。

石塚

バフェットが言うように「日本人は自信を失いすぎ。まだまだ日本はやれますよ」ってことでしょう。

安田

日本は安全だし、みんな真面目だし、人件費は安いし。海外からの投資もどんどん増えていきそうですよね。

石塚

それは間違いなく増えると思います。

安田

これは喜ぶべきことですよね。

石塚

まあ下請け的な仕事ですけどね。本当はもっと何十倍の価格をつけて売るということを日本もやってほしい。

安田

やっぱり下請けですか。

石塚

半導体も昔は日本主導でやってきたんだけど。今や台湾や韓国の下請け工場ですから。時代は変わったなって思います。

安田

20年前は逆でしたもんね。

石塚

逆でしたよ。「サムスンの工場が日本にできました」なんて、当時の人が聞いたら冗談だと思うでしょう。

安田

もう割り切って、下請けとして真面目にコツコツやるほうがいいですか。

石塚

寂しいなあ(笑)

安田

日本人は真面目ですけど、すごい付加価値を生み出すイメージが湧かないです。

石塚

おっしゃる通り。日本の教育ではなかなか難しいです。ある意味、壊れるところまで壊れないと変わらない。

安田

今回のように大手商社が儲かっても日本人は潤わないんでしょうか?

石塚

そんなことはないです。国内にお金が落ちていることは事実なんです。それと総合商社は国内事業に回帰することを考えてますよ。

安田

国内事業に回帰?

石塚

海外はリスクが大きいから。サハリン2を何十年かけて仕込んでも戦争で一発でだめになっちゃうし。中国は法律がすぐ変わるし。

安田

確かに。

石塚

意外に国内って「やりやすいんじゃね?」「事業投資しても確率いいよね」みたいな感じで。国内投資にシフトしようとしてます。

安田

へえ〜。

石塚

バフェットさんも「商社はもっと日本に投資したらどうだ?」と言ってますから。

安田

貿易ではなく投資なんですね。

石塚

トレードするだけの商社って20年前にもう終わってるんですよ。今や商社の最大の機能は事業金融機能です。つまり事業投資をするわけですよ。

安田

そうなんですね。

石塚

はい。たとえば楽天は「伊藤忠に出資してもらう交渉」を水面下で進めていると言われてます。

安田

そんなこともやってるんですね。

石塚

いろんな国内事業にお金を入れてます。もちろんお金を入れるだけじゃなく事業サポートもする。商社って商流を持ってるし、関連会社も山ほど持ってますから。

安田

なるほど。

石塚

商社がお金を入れることによって事業が加速するんです。10あるものを100とか1,000にするのは商社の得意技だから。

安田

もはや投資会社なんですね。

石塚

そうなんですよ。この10年20年で事業投資会社に変わってきてます。

安田

働く人も入れ替わってるんですか。

石塚

いえ。元々優秀な人材が集まってますから。語学スキルも高いし、いろんな商売に適応できます。

安田

じゃあ就職先としても狙い目ですね。

石塚

いいと思います。ただし意思決定が「早い部門」と「遅い部門」がある。自分がどこに配属されるかによって相当影響されますね。

安田

それって自分で選べるんですか?

石塚

選べない(笑)

安田

運ってことですか。

石塚

運も実力のうちですよ(笑)

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石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。

安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

 

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