第13回 値引きしてはいけない理由

この対談について

「日本一高いポスティング代行サービス」を謳う日本ポスティングセンター。依頼が殺到するこのビジネスを作り上げたのは、壮絶な幼少期を過ごし、15歳でママになった中辻麗(なかつじ・うらら)。その実業家ストーリーに安田佳生が迫ります。

第13回 値引きしてはいけない理由

安田

最近は、食品や日用品にとどまらず、電気やガソリンなどのインフラまで軒並み物価が上昇していますよね。


中辻

ええ、本当に。なかなか厳しい状況ですよね。

安田

一方で、高くなっている商品やサービスって、大企業のものが多いような気がするんです。つまり中小企業はなかなか値上げできていないんじゃないかと。


中辻

ああ、確かに。中小企業は値上げに躊躇してしまう傾向はありますよね。経営判断としてもなかなか難しいんじゃないでしょうか。

安田

それってなぜなんでしょうね? 「日本一高いポスティング会社」を自ら宣言し、つまりは「高く売る」ことを明言している中辻さんにとって、値上げができない経営者には何が足りないと思いますか?


中辻

うーん、難しい質問ですね(笑)。そもそも私の場合、物価状況に伴って値上げをしたわけではなくて、そもそも高く売らなければ品質が担保できないからそうしただけで。

安田

ああ、私が考えていたのもまさにそこですよ。質が高いから価格も高くなるし、今までより高くしたいのならば同時に質も高くしないとおかしい。もちろん物価上昇に伴い「仕方なく」値上げするっていう理屈もわかりますけどね。


中辻

そうですね。仰る通りだと思います。「良いものを安く」というのはそもそも無理がありますよね。

安田

ええ。資産や人員に余裕のある大企業であれば、大量にさばくことでそういう売り方も成り立つかもしれません。でも中小企業にはなかなか難しい。そうなると単価を上げて利益を確保する以外に方法がないんじゃないかと。そのあたりはどうお考えですか?


中辻

そうですね。確かに大企業であれば、大量に生産することでコストは抑えられる。さらに自社工場を作って仕組み化すれば、初期投資費用こそかかりますが、その後はより安く生産できるようになります。

安田

そうですよね。でもそうできるほどの資金は中小企業にはない。どうしたらいいんでしょうね。


中辻

規模の小さな会社こそ「1つのモノ・商品」を磨いて、他社以上の「付加価値」を見出すべきなのではないでしょうか。私はそう考えてます。

安田

なるほど。でも、屁理屈のようなことを言いますが、その「付加価値」をつけるにも「コスト」がかかるでしょう? 高品質の材料を使ったり、手間暇をかけたりというような。


中辻

ええ。だから自ずと販売価格は高くなる。お金や時間がかかっている「良いもの」だから、当然高く売りますよと。

安田

筋が通っていますね。でも中辻さんのようにできる経営者は多くないと思いますよ。中小企業の経営者の多くが、値上げすることにものすごい罪悪感があるというか。どうでしょう、そんな方たちが勇気を出せるようなお言葉、いただけませんか?


中辻

笑。というか私、「なんで値引きする必要があるのかな」って素朴に疑問なんですよね。別に下げる必要ないと思うんですけど。

安田

それは当然、値段が上がれば売れないと思っているからですよ。


中辻

そういうものですか。私なんかは「これは高かったら売れないな」って思うようなものを世に出そうとするのが間違っているんじゃない? って思っちゃいますけど(笑)。

安田

おお、そうきますか(笑)。


中辻

だって、自分自身が価値を感じていないモノを売るっておかしくないですか? そんなの誰にも必要とされないと思うんですけど。

安田

仰る通りだと思います(笑)。


中辻

「高くてもいいからこれが欲しい」「高いけどそれを上回る価値がある」と思ってもらえなければ、結局は生き残れないんじゃないかと思うんですよね。

安田

「これを高く売らずして、何を高く売るんだ?!」くらいの自信を持てないのであれば、そんな商売やめちまえ! ということですね(笑)。


中辻

シンプルに言うとそういうことですかね(笑)。というか、他社のことを気にして値段設定しているような商品なんだったら、値引きしたところで、おそらく売れないですよ。

安田

そうですよねえ。そもそもモノの価格には、原材料や製造費だけではなく、社員の努力や頑張りも含まれているわけですから。高く売るからこそ、社員にもたくさん給料を払えるわけじゃないですか。


中辻

そう考えると、値下げして安く売るってことは、安易な戦略に逃げてるだけなのかもしれません。

安田

ええ。なんなら、「高く売ることこそが社長の仕事なんだ」って言ってもいいと思いますよ、私は。


中辻

そういえば、私が『日本ポスティングセンター』を始めたとき、安田さんが「本来自分たちが定めている価値より安くすることはないんだよ」って仰ってくださったじゃないですか。

安田

そうでしたね。初回は安くするけど次回から通常価格です、というのはどこの経営者さんも嫌がるよ、みたいな話もしましたね。


中辻

それって本当にそうだなあと実感していて。最初から商品の価値を落として提供する必要はないんですよね。

安田

自ら進んで、「自分の価値」を下げる行為をするべきじゃないです。


中辻

まさにそうです。自分の商品に自信があるならば「私たちの商品の適正価格はこれです。値引きはしません」とハッキリ主張していいと思います。

安田

その代わり、買っていただいたのであれば、この値段以上の価値を提供できるように努力します、と。そういうことですよね。


中辻

そうです。それが「正しいモノの売り方」なんだと私は思います。

安田

安易に値引きをしてモノの価値を落とすのではなく、適正価格に「付加価値」をつける。そうすることで自然とお客さんから選ばれる存在になっていくのかもしれませんね。

 


対談している二人

中辻 麗(なかつじ うらら)
株式会社MAMENOKI COMPANY 専務取締役

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1989年生まれ、大阪府泉大津市出身。12歳で不良の道を歩み始め、14歳から不登校になり15歳で長女を妊娠、出産。17歳で離婚しシングルマザーになる。2017年、株式会社ペイント王入社。チラシデザイン・広告の知識を活かして広告部門全般のディレクションを担当し、入社半年で広告効果を5倍に。その実績が認められ、2018年に広告(ポスティング)会社 (株)マメノキカンパニー設立に伴い専務取締役に就任。現在は【日本イチ高いポスティング代行サービス】のキャッチコピーで日本ポスティングセンターを運営。

安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 

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