泉一也の『日本人の取扱説明書』第100回「バカ2の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第100回「バカ2の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

100回も続くとは思っていなかった。30回をアップした頃「そろそろネタぎれかなぁ」と呟くと、Y氏がさらりと言った。「泉さん、まだまだいけますよ」。Y氏は何の根拠でそう言ったのかわからないが、その言葉に乗せられた。なんとなく無限に書けそうな氣になった。

そしてネタに困ることもなく100回。私は日本文化の研究者でもなんでもないのに、なぜ続いたのか。読者はご存知のように「変と不変の取説」というY氏との対談コラムを裏で走らせているのだが、この対談がちょうどいい具合に刺激になってこのコラムの継続性を高めたのだ。

第93回「ツッコミの国」で取り上げたが、漫才も落語も基本「対話型」である。対話が「笑い」という活性化した場を生み出している。日本の文化にはこの対話という「掛け合い」が核にあることを忘れてはいけない。

もう対話のことをダイアローグなどとキザに言ったりするのはやめよう。掛け合いはそんなキザなものではない。甲ではなく、乙なものである。その乙な掛け合いがなぜ場をつくるのか。ここに場作りの極意がある。

人は本来かっこつけたがる。良く見せたい、良く見られたい、好かれたい。そういう本能が誰しもある。なぜなら人は「協力」で生きる種なので、良く見られ好かれると、自分に進んで協力しれてくれる人が増え、生存の可能性が高まるからだ。「かっこつけ」は生存本能というわけだ。

現に今このコラムを書きながらも「泉さんって賢いとか物知りとか思って欲しい」といったかっこつけ本能が自動的に働いている。

この「かっこつけ」が鼻につく。嘘くささを伝えてしまう。正義感を振りかざし、暗に周りを否定する。関西弁だと「いちびり」というのだが、この「かっこつけ」を壊してくれるのが、掛け合いの対話=バカ2なのだ。

昔、読売テレビで「パペポTV」という人気番組があった。上岡龍太郎と笑福亭鶴瓶の掛け合いオンリーの番組であったが、上岡龍太郎の知ったかぶり=「かっこつけ」を鶴瓶が壊しにかかるのだが、うまく壊せたり壊せなかったり、時には上岡龍太郎に反撃をされながら対話が続く。

話の中身よりもその掛け合いが面白い。漫才師と落語家のコラボレーションであるが、二人とも対話の極意を知っていたので、あの絶妙な掛け合いが生まれた。元々は二人の楽屋トークだったが、これに価値を見出したのだ。

「かっこつけ」を壊す&壊される対話。この掛け合いは聞いている周りに価値を与える。それは面白さであり、痛快さである。イタ気持ちいい感触。嘘くささを壊すことで本当の事が見え、正義感を壊すことでちょうどいい道が見えてくる。バカ2な対話を聞いて自分の中にも見つけたかっこつけを疑似体験的に壊されると、背伸びせんでええんやと楽になれる。

かっこつけないことが逆にかっこいいといった感覚。ここに場を活性化する対話の極意がある。とかっこよく決めたくなる自分がここにいる。100回ではまだまだ修行不足のようである。

著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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