第12回 「もったいない」で損をする
私は「トラックは金融資産」というコラムを毎週書いています。
トラックには寿命があり、時間と走行距離で価値が落ちていくという内容です。「平成28年のダンプカー」「走行距離30万キロの冷凍車」といえば、“平成28年”や“走行距離30万キロ”が価値や寿命をあらわします。
トラックそのものに注目すると、そんなこと当たり前の話なのですが、実際の再販価格は時間と走行距離であらわすことができません。需要と供給で価格が決まる相場商品になるためです。
例えば、繁忙期前は中古車の値段が上がりますし、景気が落ちれば価格は下がります。
そしてあとひとつ、大きな価格決定要因があります。「もったいない」です。
「もったいない」と思う心理が、価格決定要因になるとはどういうことでしょうか?
【もったいないとは?】
「もったいない」とは、売り手の心理のことです。
「古いトラックだけれど、調子よく働いてくれてるし、新車に買い替える必要もないな。買い替えるならお金かかるし。乗り潰した方がお得だし。」
という、再販価値を気にせず売らないという考え方。
「あまりこのトラックを使わなくなったけれど、あと2年のローンもあるから、支払い終わるまで持っておこう。今売ったら、残債が残っちゃうし。」
という、直近の損得に目を奪われて、売らずに手許に残す考え方。
このように考える人が本当に多いのです。
【もったいないが価格に与える影響】
みんなが「もったいない」と考えると、どのように価格が変わっていくのでしょうか?
実際の価格を見てみると、「もったいない」という理由で、乗り潰すのを選ぶひとが多いので、古いトラックの価格は落ちています。
「もったいない」という理由で、ローン残債がなくなるのを待つ人が多いので、5年落ちのトラックの価格は急激に下がっています。
本当は、まだ使えるときに再販したほうが、高値で取引されます。5年待たずに転売したほうが、得になります。
そうです。自分の支払った金額や、借り入れしたお金を基準に考えてしまうと、再販価値を見誤ることが多くあるのです。自身の金銭的損得にこだわるあまり、高いときに再販したり、安いときに買ったりすることができません。支払ってしまった戻ってこないお金を惜しむあまり、客観的に判断できないのです。
出費したから、「もったいない」。
みんながそう考えると、「みんなでもっと、もったいない」。
【個人のもったいないを考える】
ここで、自分の仕事をさきほどのトラックに置き換えてみると、どう思われますか?
乗り潰すと自身の価値が落ちている。借りがあるからと、時期をうかがううちに旬が過ぎてしまう。みんなが考えることが同じだとするなら、供給過多で自身の価格が下がる。
何が大切なものかは、自分自身が決めることですから、他人がとやかく言うことではありませんが、「もったいない」という理由で、自由がなくなり、客観的な視野が狭くなるのは不幸だなと感じるのです。
過去の苦労や思い入れは仕事へのモチベーションになりますし、そこで得た経験や知識は今の自分を形成しています。ただ、投資した時間やお金などの戻ってこないものは、自身の現在価値とは関係がありません。「もったいない」と思わずに、自分の今の価値、将来の価値を見極めることが、「青い出口」に向かうヒントになるのではないでしょうか?