変と不変の取説 第86回「国家戦略がないのはなぜ?」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第86回「国家戦略がないのはなぜ?」

前回、第85回は「陰が極まるその前に

安田

国民全員に10万円配る件ですけど。

はい。

安田

当初は財務省が反対してましたよね。

国の収入を増やして支出を減らすのが彼らの仕事なので。

安田

政治家にしても、国の財政が崩壊したら困るわけで。

そりゃそうです。

安田

国民をある程度豊かにしつつ、国の財政も守らなくちゃいけない。そこが難しいところですよね。

そう思います。

安田

「愚かな政治家だった」なんて後世で言われたくないだろうし。

そこはすごく意識してるでしょうね。

安田

それでいくと今は非常事態なので、もうちょっとお金を配るべきなんじゃないかと思うんですよ。

10万円じゃ少ないってことですか?

安田

はい。いま、国の借金が1,000兆ぐらいあるじゃないですか。

ありますね。

安田

いまさら100兆ぐらい増えたって変わらないと思うんですけど。

大旦発言ですね(笑)

安田

通貨を発行できるんだからどんどんばらまいちゃえばいい。なぜ政治家がそこを渋るのかが不思議です。べつに自分の金でもないのに。

じつは今回、法律で国債の発行を無制限にしたんですよ。

安田

じゃあ発行し放題ですね。

そうなんですけど。基本的に日本はプライマリーバランス(国の収支)を均等にしようとしてやってきてる。それも一応憲法に書いてあって。

安田

憲法に書いてあるんですか?

太平洋戦争のときに日本はすごい借金をして、戦時国債を出してるんです。

安田

へえ。

GDPの8〜9倍の戦時国債を発行して戦争をやっちゃった。

安田

暴走したと。

はい。それで戦争に負けたときに「そういうのはやめろ」とGHQが言ったわけです。

安田

親分に禁止されたわけですね。

だから日本はこっそりと「建設国債」というのを発行して、うまくすり抜けながらやってきた歴史がある。

安田

なるほど。

なので財務省(旧大蔵省)には「そういうのが嫌い」という風土がある。本当はガンガン発行すればいいんですけど。

安田

「発行するな!」という命令が染み付いてるんですね。

日本は個人資産も1,400兆ぐらいあるので、ガンガン国債を発行したらいいんですよ。緊急事態なので。

安田

ですよね。

「1人10万円1年間毎月払います」ぐらいでちょうどいい。

安田

戦争に金使うのを反対するのは分かります。でも国民の生活を立て直すために使うなら何ら問題ないと思うんですけど。

何の問題もないです。

安田

通貨が暴落するとか言われてますけど。むしろ、いままでインフレを目指してたわけで。

その通りです。

安田

インフレになるんだったら一石二鳥だし。

ただ財務省は本当に嫌いなんですよ。国債を発行するのが。

安田

そうみたいですね。

黒田さんがお金をブワーっと発行しましたけど。国債発行に関してはかなり渋ります。

安田

最終的には誰の権限で決めるんですか。財務省の許可を取らないと発行できないってわけじゃないでしょ?

財務省の理論と戦えるだけの、理論武装をした政治家がいないってことです。

安田

ああ、なるほど。

だから言いくるめられる。

安田

「財政が崩壊するぞ」って言われて、ビビらされて決断できない?

そうです。政治家たちのリテラシーが低すぎるので。

安田

なんでそんなにリテラシーが低いんですか?

リテラシーを高める場がないまま政治家になってるから。リテラシーの高い官僚とまともに議論できない。

安田

で、言われるがままやってしまうと。

そうです。

安田

でも、官僚だってこの国をつぶしたくはないはずですよね。

官僚の人たちは細分化された世界にいるので。省庁を越えた全体のビジョンとかを持ってないんですよ。

安田

会社に例えると、経理課長が「お金がなくなって潰れますよ」と社長を脅してる状態ですね。

そうです。「無借金経営にしましょうよ」みたいな。

安田

だけど全体の成長戦略はないと。

ないです。

安田

でも、すでに1,000兆ぐらい借金あるじゃないですか。

渋りながらダラダラ増えていってます。

安田

最悪じゃないですか。何の戦略もないまま借金だけが増えるって。

本当は「これだ」という戦略を練って、そこに張らないといけない。企業経営者で言うところの投資ですね。

安田

みんなが渋ってる時に「やるぞ」と決断するのが、リーダーの仕事なんですけど。

本来はそうですけど。日本の政治はそういう仕組みにはなってないですから。

安田

多数決で結論を出すんだったらトップはいらないです。「みんなが反対してるけど、これだけは誰かが決断せねば」ってときにこそリーダーが必要。

そもそもそういう能力がないんですよ。

安田

能力がない?

何を決断すべきかを判断する能力がない。そういう経験を積んできてないので。

安田

そんな人に国のトップを任せていいんですか。

よくはないけど、いないから仕方ない。

安田

いないんですか?国全体を見据えたビジョンをもってる政治家って。

いたら首相になってると思うんですけど。

安田

数の論理でトップに立てないだけなんじゃ?

そもそも票が集まらないので。政治家になれないですよ。

安田

なるほど。ということは政治家になる仕組み自体に問題があるってことですね。

まあ結論を言えば、われわれのレベルが低すぎるので安倍首相がいるんですよ。

安田

自分たちの責任だと。

国民全体のレベルが上がり、その代表としてのリーダーのレベルが上がる。これ意外に方法はありません。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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