第91回「フリーランスこそ社会保険」

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第91回「フリーランスこそ社会保険」


久野

やっぱり社会保険ってすごいですよ。

安田

ホントですか(笑)

久野

たとえばサラリーマンには労災があるじゃないですか。

安田

労災ってそんなに凄いんですか?

久野

病気になると、会社に行かなくても1年半は給料もらえます。67%ぐらいですけど。

安田

1年半も!

久野

大きいですよ。あと労災で仕事中に怪我すれば給料は補填されますし。

安田

それって会社が出すわけじゃない?

久野

保険料から出ます。あとは出産の予定日の42日前から出産後56日間、出産手当金がもらえます。育児休業を取ってる間も最長2歳になるまでお金がもらえる。

安田

確かにそういう部分は手厚いですよね。病気になったり、働けなくなったときとか。

久野

そうなんですよ。障害年金というのもあって、これもかなり大きいです。

安田

社保って昔からそんなに手厚かったんですか。

久野

昔から手厚いです。たとえば月給30万円の人が仕事中に亡くなるじゃないですか。すると奥さんに年金が175日分出るんですよ、労災から。

安田

それはずっと出るんですか?

久野

これは奥さんが死ぬまで出るんです。これに遺族基礎年金と、遺族厚生年金がプラスで更に出ます。そうすると年収が300万ぐらいになるわけですよ。

安田

「社会保険料が高い」って世間のみなさんは怒ってますけど。

久野

私は常々言ってますけど、厚生年金保険って最強の保険だと思います。障害と死亡に関しては。

安田

だけど元気で稼いでたら「掛け捨て」になっちゃうんですよね?

久野

それは生保でも同じじゃないですか。

安田

生保には積み立て保険もありますから。

久野

何かあったときの保険としては社保で十分ってことです。

安田

へえ。十分ですか。

久野

国民年金を踏み倒して生命保険を払ってる人もいますけど。本末転倒だと思います。

安田

生保よりは全然いいと。

久野

カバーしてる範囲が違う。

安田

たぶん、みなさん掛け捨てが嫌なんですよ。

久野

余裕がないなら掛け捨てで十分じゃないですか。

安田

60歳を過ぎても稼いでる人は年金もらえないんですよね?

久野

国民年金はもらえます。厚生年金は金額によってはもらえないこともあります。

安田

じゃあ「稼ぐ自信がある人」は入る必要がないってことじゃないですか。

久野

稼げる人だって死ぬことはあるし、怪我や病気もしますよね。

安田

まあそうですけど。

久野

「社保に入らない」という選択肢はないと思います。

安田

「稼ぐ自信のない人」は、なおさら入らないとダメだと。

久野

はい。

安田

まあ日本はサラリーマンが多いですから、強制的に徴収されますけど。

久野

そうですね。数が多いからこれだけ手厚いともいえます。

安田

でもサラリーマンって元々はこんなに多くなかったでしょ?

久野

もともとは国家戦略上、高度経済成長のために、とにかく大きな会社をつくりたかったんでしょうね。

安田

大きな会社と社保が関係あるんですか?

久野

大きな会社にするためにはサラリーマンを増やさなきゃいけない。だからサラリーマンになったほうが「メリットが大きい」という施策に振ってきた。

安田

それが社会保険だと。

久野

会社が半分負担しますからね。義務として。

安田

確かに。

久野

個人事業主って、社会保険に関しては無防備じゃないですか。ノーガードというか。

安田

国民健康保険しか入ってない人が多いですね。

久野

かなり危ないと思います。「個人事業主」と「法人化してるひとり社長」では全然違いますから。

安田

国民健康保険だけじゃ足りませんか。

久野

何かあった時の備えとしては危ないと思います。

安田

だから生保に入るんでしょうね。

久野

生保はあくまでも社保の次です。

安田

社保ってなんか損しそうな気がするんですよね。

久野

メディアも悪いと思います。死んだときや障害を負ったときにもらえる社会保険をもっと勉強したほうがいい。めちゃくちゃメリット大きいですよ。

安田

それは久野さんが立場上、言ってるだけじゃなく?

久野

違います(笑)私はどのセミナーでも言ってます。とりあえず社会保険は「ちゃんと払ったほうがいい」って。

安田

サラリーマンは「損してる」と思ってますよ。毎月すごい金額を天引きされて。

久野

独立したり、個人事業主になると「めちゃくちゃメリットが大きかった」というのが分かります。サラリーマンは知らないだけ。

安田

つまり「社会保険がある限り会社員は辞めるな」と言いたいわけですか?

久野

違います。独立したときにも法人化して「社会保険に入ったほうがいいよ」というのが私の提言です。

安田

フリーになったとしても法人化して社会保険には入ったほうがいいと。

久野

そうです。ある程度収益上げて社会保険に入ったほうがいい。

安田

でもその場合、倍払いになりますよね。

久野

会社負担と個人負担があるので倍払いになります。

安田

じっさい私も入ってますけど凄い金額ですよ。「ひとり株式会社」なので、会社側と個人側で倍払い。

久野

1人社長だったら会社の損金で落とせるわけだし。

安田

それだけの価値がありますか?

久野

間違いなくあります。

安田

へえ。じゃあフリーになるんだったら法人化して社会保険に入れと。

久野

そうです。それほどよくできた保険なんですよ。

安田

実感ないですけどね。

久野

社員さんも実感ないと思いますけど、すごく守られてるんですよ。いざという時にわかります。

安田

分かりました。じゃあみんなで社会保険に入りましょう!

久野

そうしましょう(笑)

安田

その手続きを社労士の久野さんに頼みましょう!

久野

そうです(笑)ってのは冗談ですけど。本当に入ったほうがいいですよ。

安田

でも社会保険に入るなら社労士さんは必要ですよね?

久野

社員を雇用しないんだったら社労士はいらないです。

安田

書類申請とかどうするんですか?

久野

自分でできると思います。まあ1回ぐらい話は聞いたほうがいいと思いますけど。

安田

じゃあ、まずは久野さんに話を聞きに行きなさいと。

久野

「なぜ必要なのか」って話は2時間ぐらいできると思います(笑)



久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

感想・著者への質問はこちらから