今週は!
銀座6丁目の路地の奥底に、
ちょいと艶っぽい女性店主が
やっているBarがある。
名前を、hisui、という。
職業柄、飲食店に入るとついつい
店名の由来を尋ねてみたくなるのであるが、
hisuiでそれをしたことがなかったは、
「翡翠」だと思い込んでいたからだろう。
先週、親しい友人と店を訪ねた。
ひとしきり飲んだ後、思い付いて
そういえば、hisuiって
どういう謂われなのよ?と
カウンターの端っこに座っている
常連のミヤチさんに尋ねてみた。
「そりゃ、ぼくからじゃなくて、
直接聞いた方がいいでしょう」
ふふふ、そうねぇ。
酔うと目尻が下がって福顔になる店主が
意味ありげに微笑むと、
キャビネットの奥から
1本の酒瓶を取り出した。
「秘酔」
ラベルを見ると、そう書いてある。
私は知らなかったのであるが、
お酒は岩手の陸前高田市にある日本酒の蔵元、
酔仙酒造が造る米焼酎だった。
1944年創業の酔仙酒造は、
東日本大震災の津波によって、
7名の人命を含む甚大な被害を受けた。
その後、工場こそ新しく建てられたものの
この米焼酎はまだ造られていない。
いわゆる幻の酒の名が、
店名の由来だったのであるが、
今回のオチはここではない。
ハッとして隣を見ると、
友人がなんでだよう、
なんでこんなところにいるんだようと
ボトルを撫でながら呟いている。
そう、友人は、
陸前高田の生まれなのだ。
しかも震災の前は、
酔仙酒造のすぐそばに、
実家があったのだという。
人には、いろんな出会いがある。