第21回 「器用貧乏なお医者さん、にならないために」
お医者さん
クリニックを開業して5年。もっと利益をあげようと大規模な経費削減を行ったけど、あまり効果は出てていない。
お医者さん
スタッフを限界まで減らして、自分でできることは何でもやるというつもりで頑張っているのに…。まったく、これ以上なにを頑張ればいいんだ…
ちなみに、どんなことを先生が担当しているんですか?
絹川
お医者さん
もう、何でもやってるよ。診察はもちろん、備品発注や電カルの管理、スタッフのシフト作成に、給与計算まで。……って、あなたは誰?
ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしています。
絹川
それにしてもすごいですね、一人何役なんでしょう。そのような状況だと、目の回るような忙しさなんじゃないですか?
絹川
お医者さん
本当だよ。診療時間はもちろん、終わった後も事務処理やらなんやらで残業続きさ。まあ、小さなクリニックだから何とかなっているけどね。
そこまで頑張って経費削減しているのに、効果が出ていないと。
絹川
お医者さん
そうなんだよ。もちろん経費は下がっているんだけど、なぜか売上も一緒に落ちてきちゃってて。結局プラマイゼロ、下手したらマイナスになっちゃう月もあって。
それはなぜだと思います?
絹川
お医者さん
それがわからないから困ってるんじゃないか。患者さんの数自体は大きく変動していないんだよ。だから不思議で。
ズバリ言いますが、その理由は「先生が自分で何でもやっている」からです。
絹川
お医者さん
……は? いやだから、利益のために経費削減をしなきゃならないって話をしているんだよ。
仰っていることはわかります。しかし先生は、担当業務が増えることで起こる「主業務への影響度」を考えておられない。これは非常に重要なポイントです。
絹川
お医者さん
主業務ってつまり、診察のこと?
そうです。発注や給与計算などの業務まで担当するようになったことで、先生は非常に忙しくなった。結果、おそらく先生自身も気づかぬうちに、最も大切な診察業務のクオリティが下がってきているんです。
絹川
お医者さん
診察の……クオリティ
そうです。先ほど先生が仰っていたように、患者数に変動がないのに売上が下がっているとすると、つまりは単価が落ちているわけです。単価というのは、もちろん病状に左右されるものですが、実は患者さんの信頼度や満足度が大きく影響するんです。
絹川
お医者さん
信頼度や満足度…
先生、経費削減を始める前と今とで、患者あたりの診察時間が短くなっていませんか?
絹川
お医者さん
……まあ、そうかもしれないね。だって、そうしなければ仕事が終わらないんだ。仕方ないじゃないか。
これまで先生は、患者さん一人ひとりにしっかり向き合っていたんじゃないでしょうか。だからこそ患者さんも先生を信頼し、ちょっとした心配事も気軽に相談してくれていた。結果、患部だけ見るのではなく全身ケアのような診察を行うことになり、自然、単価も上がっていた。……こんな風に想像できます。
絹川
お医者さん
なるほど……それがなくなったことが売上ダウンにつながっていると言うんだね。確かに、自分に余裕がないから気にしていなかったが、患者さんとのコミュニケーションは確実に減っているな。
生産性や効率だけでビジネスを考えてしまうと、その仕事本来の価値を見失いがちです。端的に言えば、「患者さんをじっくり見てくれるお医者さん」という価値を、先生は自らの行動で下げてしまっているのです。
絹川
お医者さん
そんな……しかし、仕方がないだろう? 僕がやるしかない仕事がたくさんあるんだから。
餅は餅屋、という言葉がありますが、基本的に人は自分の得意分野、つまり客側から見た場合の「価値」にパワーを集中すべきです。先生は強みである診察に集中し、他のことは全部人に任せた方がいいと思いますよ。一時的に経費は上がっても、先生の「価値」が上がっていくので、きっと売上も増えていきます。
絹川
お医者さん
う〜ん、なるほど、正直そんな考え方をしたことはなかったよ。出ていくお金を減らすことに必死になるあまり、ちょっと視野が狭くなっていたのかもしれない。
ちなみに今は、あらゆる業務がアウトソーシング可能です。スタッフを雇うより安い経費で利用できるサービスがたくさんあるので、よかったらご紹介しますよ。外部業者なら教育コストもかかりませんし。
絹川
お医者さん
へえ!そうなんだね。いろいろ相談したくなってきた。また時間をとってもらえるかな。
もちろん大歓迎です!
絹川
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。