第145回「塩男の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第145回「塩男の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

サラリーマンは和製英語であるが、直訳すると「塩男」。サラリー(salary)の語源は「塩」を意味するラテン語のサラリウム(salarium)だからだ。

1942年(昭和17年)生まれの親父から「塩男になれ」と育てられた。生命に必須な塩を定期的に配給されるからである。親方の親父は、安定して稼ぎ、雇っている職人さんに安定して給与を払うことの苦労を身に染みて知っていた。そして息子は晴れて塩男になったが、6年が限界だった。

終戦前後の貧しさを原体験にもつ親父世代は、サラリーへの価値はものすごい。サラリーがあれば、毎日ご飯が食べられる。服が買える。お菓子が買える。おもちゃが買える。なんて夢のような生活か。

親父世代は、欲しいエネルギーが一番高い子供時代にひもじい体験をしている。心の奥に深く根を生やしている。そのひもじさと比べたら、サラリーマンの苦しさなど屁である。その親父世代の多くは塩男になり、我慢して働いた。「あのひもじさと比べたら・・」と自分に言い聞かせて。

その親父世代の子供たちの多くは、男も女も塩男になるのだが、「あのひもじさと比べたら・・」と自分に言い聞かせる言葉がない。なので、我慢ではなく自分に嘘をつきながら耐えることになる。親父世代から教えられた「サラリーマンなんだから我慢せよ」という言葉を信じながら。

その結果、メンタルをやられ、働かないおじさんと罵られ、あげくにリストラ。教え通りの塩男として頑張ってきたのに。なんて仕打ちなのか。孫世代になると、塩男の哀れさを知り、アホらしくて引きこもりやニートになる。

これは、原体験が違う次世代に、自世代の原体験をベースに教えると起こる不幸な現象である。若者世代も学ぶ相手を間違えると、こういった不幸を招くことを、知っておく必要があるだろう。

「サラリーマンなんだから我慢せよ(あのひもじさと比べたらたいしたことないだろ)」といった呪術をかけられた現代の塩男たち。その呪いで自分に嘘をつき自分を苦しめていた。「飲み会は絶対断らないわよ」と自分に言い聞かせた末路を見てわかっただろう。

この呪いを解こうとすると、呪い返しがくる。「じゃああんたは私の生活を保証してくれるのかよ」といった圧で。呪力が弱いとその呪い返しにやられてしまう。結果、触らぬなんとかになる。

では呪いを解いてしんぜよう。今日は特別、無料サービス。

「塩男たちよ目覚めなさい。塩は呪いではなく、呪いを解く浄化のシンボル。清め祓うのに使う聖なる物質。よく考えてみなさい。塩は工場で作られて、サラリーで買うものではない。海に囲まれた日本にはそこら中に塩があり、あふれんばかり。ただ、その塩の作り方を知らないだけ。

塩は配給されるものではなく、自分で作れる。これまでちゃんと配給される人間になろうと頑張ってきたのは、親父世代の教えを忠実に守っただけ。これからは、自分で塩を作ることを学べばいい。原材料は無限にある。精製の方法は学校のカリキュラムにないので、師匠について学べばいい。

そして、自ら精製した塩で呪いを解くのだ!」

 

 

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著者情報

泉 一也

(株)場活堂 代表取締役。

1973年、兵庫県神戸市生まれ。
京都大学工学部土木工学科卒業。

「現場と実践」 にこだわりを持ち、300社以上の企業コーチングの経験から生み出された、人、組織が潜在的に持つやる気と能力を引き出す実践理論に東洋哲学(儒教、禅)、心理学、コーチング、教育学などを加えて『場活』として提唱。特にクライアントの現場に、『ガチンコ精神』で深く入り込み、人と組織の潜在的な力を引き出しながら組織全体の風土を変化させ、業績向上に導くことにこだわる。
趣味は、国内外の変人を発掘し、図鑑にすること。

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