日本人は中東を「イスラム教の国々」と一括りにしてしまいがち。でも中国・北朝鮮・日本がまったく違う価値観で成り立っているように、中東の国だって様々です。このコンテンツではアラブ首長国連邦(ドバイ)・サウジアラビア・パキスタンという、似て非なる中東の3国でビジネスを行ってきた大西啓介が、ここにしかない「小さなブルーオーシャン」を紹介します。
質問
「アラブ首長国連邦には首長がたくさんいるのですか? その人たちは日本でいえばどんな立場ですか?」
回答
UAE(アラブ首長国連邦)は複数の首長国が集まってできている連邦国家です。首長国の数は7つですから、首長は7人だけでそれ以上はいません。立場で言うと、首長の権限は非常に強いので、日本に同等といえるポジションはないように思います。
と、これで回答終了しては寂しいので、今回はUAEについて少し詳しく見てみたいと思います。
UAEの首長国は7つで、それぞれの名前はアブダビ、ドバイ、シャルジャ、アジュマン、ラス・アル・ハイマ、フジャイラ、ウンム・アル・カイワインといいます。
一般的にはアブダビとドバイの2つしか聞いたことがない人が多いかと思いますが、実際に存在感が大きいのはこの2つです。
まず、7つの首長国についてざっくりとした情報は次の通りです。
(JETRO「UAEビジネスエントリーガイド」より)
左から2番めに「首長家」という項目がありますが、それぞれの首長は選挙ではなく世襲で決まります。
日本でいえば都道府県と対応するように見えるかもしれませんが、首長国という呼び名の通り一つ一つが国のような性質を持っていて、独立性はより大きいです。
首長は英語で「Ruler(統治者)」と表記されることからもわかるように、その権限は日本の知事のそれよりも遥かに強いです。
首長国によって法律やルールが異なっており、経済政策も異なります。
例えばシャルジャでは飲酒は許されていませんが、アブダビやドバイではOKだったりします。
アメリカの州のようでもありますが、民主主義ではなく絶対君主制で、政党は存在しません。
これらが7つ集まってUAEという一つの連邦国家を形成しています。
絶対君主制と聞くと、日本では馴染みが薄く、なんとなく怖いイメージがあるかもしれません。
政党も許されていませんし、民意が反映されにくい政治体制ですが、UAE国民は政治に対してネガティブな印象を持っているわけではないようです。
理由としては、UAE国民が受けることのできる高福祉が挙げられると思います。
たとえば、UAE国民は外国人に比べ遥かに高給な公務員職に就きやすく、平均世帯年収は2600万円というデータがあります。これに所得税は課されません。
また、連邦予算の約25%が教育分野に振り分けられていて、公立なら幼稚園から大学までの教育を無償で受けることができます。留学費用も国から出ます。
医療費も基本的に無料です。場合によっては外国での治療にもお金が出るようです。
また、国民同士が結婚すると国の結婚基金から7万ディルハム(約210万円)の祝い金が出たりします。
日本では考えられない高福祉ですよね。「別に民主化しなくても今のままでいい」と考える人が多いのも頷けます。ちなみにこれは、たとえ定住しているとしても外国人には適用されません。
石油収入という不労所得があるために、国民からの税収に頼ることなく成り立ってしまうレンティア国家であり、かつ自国民の割合が少ないので、「ゆりかごから墓場まで」をリアルに実現できてしまう国だと言えるでしょう。
この高福祉が維持される限り、統治者の権限が揺らぐことはないだろうと思います。
この記事を書いた人
大西 啓介(おおにし けいすけ)
大阪外国語大学(現・大阪大学)卒業。在学中はスペイン語専攻。
サウジアラビアやパキスタンといった、どちらかと言えばイスラム感の濃い地域への出張が多い。
ビビりながらイスラム圏ビジネスの世界に足を踏み入れるも、現地の人間と文化の面白さにすっかりやられてしまった。
海外進出を考える企業へは、現地コネクションを用いた一次情報の獲得・提供、および市場参入のアドバイスを行っている。
現在はおもに日本製品の輸出販売を行っているが、そろそろ輸入も本格的に始めたい。大阪在住。
写真はサウジアラビアのカフェにて。