このコラムについて
経営者諸氏、近頃、映画を観ていますか? なになに、忙しくてそれどころじゃない? おやおや、それはいけませんね。ならば、おひとつ、コラムでも。挑戦と挫折、成功と失敗、希望と絶望、金とSEX、友情と裏切り…。映画のなかでいくたびも描かれ、ビジネスの世界にも通ずるテーマを取り上げてご紹介します。著者は、元経営者であり、映画専門学校の元講師であるコピーライター。ビジネスと映画を見つめ続けてきた映画人が、毎月第三週の木曜日21時に公開します。夜のひとときを、読むロードショーでお愉しみください。
『スター・ウォーズ』に見る、誰のために戦うのかという疑問
ジョージ・ルーカスは『スター・ウォーズ』の第一作目を1977年に公開した。これが大ヒットしたことで作品はシリーズ化され、1980年には『帝国の逆襲』、1983年には『ジェダイの帰還』が公開された。この時、ルーカスはインタビューで「スター・ウォーズシリーズは現在の三部作とその親の世代の三部作、さらに子どもの世代の三部作、計9作品のサーガとして制作する。そのすべてが完結するのは2001年だ」とぶち上げ、ファンたちは2001年という年号も相まって狂喜乱舞したのである。
もちろん、結果は紆余曲折あり、遅れに遅れたけれど、最初に計画された9作品は2019年に完結した。完結はしたけれど、個人的に『スターウォーズ』といって思い浮かべるのは最初の三部作だろうと思う。ルーク・スカイウォーカーとレイア姫、そして、ハン・ソロが出てこない『スター・ウォーズ』なんて…。もちろん、それは個人的な見解だけれど。
さて、『スター・ウォーズ』の魅力はなにかと問われたら、結局は自己犠牲だ。タイトルが示す通り、やはりこの作品は戦争映画なのだ。自らを犠牲にしてでも、我らが生まれた星を守らなければ、という正義が最優先される。サイエンスフィクションの世界でも、規模が大きくなり時空を超えているだけで、戦争は繰り返されているというお話なのだ。星と星を自由に渡り歩くようになっても、人はもっと欲しがる。ここでいう人は、地球人も含めた宇宙人たち全般である。もちろん、この映画に登場する宇宙人たちは地球人が考えしか反映していない。だから、どこまでも地球人的な存在だ。みんなが欲しがり、そのために奪い合い、戦い、そして、慰め合う。
つまり、『スター・ウォーズ』の最初の三部作は、古い価値観の星戦争を丁寧にしっかりと描いたことで支持を得たのだと思う。だからこそ、その後作られた6本の作品が、激変する現代の価値観に合わせて、予定調和のように作られてしまったことに多くのファンは落胆してしまったのだ。
最初の『スター・ウォーズ』を生み出し、時間を経てルークやレイア姫の子供時代を3部作として描いた後、ルーカスはあっさりと『スター・ウォーズ』をディズニーに売り渡した。いろんな事情があったのだと思うのだけれど、一番の理由はルーカスが『スター・ウォーズ』を作ることに飽きたからだと私は思っている。
愛着はある。けれど、時代のニーズに合わせて、これから先、何年も『スター・ウォーズ』を作り続けることはルーカスにとって苦痛でしかなかったのでないだろうか。ディズニーは時代のニーズに合わせるカスタマーファーストの会社だ。そんなものは真のクリエイターにとって、苦痛でしかあり得ない。
あなたの会社はどうだろう。例えば、DX(デジタルトランスフォーメーション)を取り入れて、利益率をあげ、効率のいい事業運営を実現していても、あなた自身が事業の継続に喜びを感じていないなら経営者としての真の喜びはないかもしれない。そんなときは、ルーカスのように価値があるうちに会社を売り払い、小さくても真っ青な新しい海を手に入れるのというのもいいかもしれない。
【作品データ】
スター・ウォーズ
Star Wars
1977年制作
121分
監督/ジョージ・ルーカス
出演/マーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、アレック・ギネス、ピーター・カッシング
音楽/ジョン・ウィリアムズ
撮影/ギルバート・テイラー
編集/ポール・ハーシュ、マーシア・ルーカス、リチャード・チュウ
著者について
植松 雅登(うえまつ まさと)
兵庫県生まれ。
大阪の映画学校で高林陽一、としおかたかおに師事。
宝塚、京都の撮影所で助監督を数年間。
25歳で広告の世界へ入り、広告制作会社勤務を経て、自ら広告・映像制作会社設立。25年以上に渡って経営に携わる。映画学校で長年、講師を務め、映画監督、CMディレクターなど、多くの映像クリエーターを世に送り出す。
現在はフリーランスのコピーライター、クリエイティブディレクター。