2011年に採用ビジネスやめた安田佳生と、2018年に採用ビジネスをやめた石塚毅による対談。なぜ二人は採用ビジネスにサヨナラしたのか。今後、採用ビジネスはどのように変化していくのか。採用を離れた人間だけが語れる、採用ビジネスの未来。
第306回「大企業の出世事情」
大企業が3年ぶりに1万人超の早期退職を募っています。しかも業績がいい会社まで。
余裕があるうちに45歳以上をなるべく減らしておきたいから。
上が重たいってことですよね。大企業は。
2027年をピークに45歳以上の割合はどんどん減っていくんですけど。それを加速させたいんでしょう。
放っておいても減っていくのに更に加速させたいと。
20代の中途採用者に高年収提示するようになってきてるから。
その原資を確保しなくちゃいけない。
そう。わかりやすい図式なんですよ。総額人件費の配分を変えてるだけ。
上を減らして下を手厚くしたいわけですね。この傾向はずっと続くんですか?
加速すると思います。
とはいえ今の20代もいずれはアッパー層になっていくわけです。
おっしゃる通り。
そうなったら彼らにも早期退職を促すんですか?
はい。同じこと繰り返すと思います。
それが分かっていても入ってくるんでしょうか。
入ってくると思います。リクルートなんて昔からそういうやり方じゃないですか。若いうちからチャンスを与えて、給料もどんどん払って、40過ぎたらもう次のキャリアに行ってくれと。
つまり日本の大企業はリクルート化していくってことですね。
はい。事実上の定年を40ぐらいにして、出戻りもいれば中途入社もいれば、ものすごく優秀な人は再契約してもっと高い年俸で残る。「40歳以降の生産性が高くなると同時に多様化する」というのが僕の読みです。
中間層の人材が不足しませんか?マネージャーとか。
外部からどんどん入ってくるでしょうね。
限りなく外資に近づいていく感じでしょうか。
それに近いと思います。少し日本的には変容するけど大きな流れとしてはそっち。
外資ほどドラスティックではないけど、おおむねその方向に行くってことですね。
プロ野球みたいな組織になるんじゃないですか。生え抜きでずっと行く人もいるけどトップ層はFAでどんどん移って、監督やコーチは外部から優秀な人を招聘してくる。
なるほど。チームの生え抜きが監督になる時代はもう終わりと。
プロ野球でもそういうチームは低迷していますよね。巨人とか中日とか。
その点メジャーリーグは合理的ですよね。監督やコーチはスペシャリストとしてスキルを磨いた人がやる。若くても能力があれば抜擢されて。
そうなっていかざるを得ないでしょう。
少し日本的に変容するとおっしゃっていましたが。どのあたりが違うんでしょうか。
大企業っていろんな部門を持ってるじゃないですか。
はい。関連会社も多いですよね。
おっしゃる通り。1つの会社に30ぐらいの会社が同居してる感じ。そこに主流部門と傍流部門があるわけですよ。
主流じゃないと出世できないんですよね。
実はこの10年でその傾向が変わってきていまして。手腕のある経営者が傍流部門から抜擢されて上にいくパターンが結構うまくいってるんです。
傍流から抜擢されるんですか?大企業は1回でもミスして「主流から外れたら終わり」というイメージです。
そこが変わりつつあるんですよ。キリンホールディングスのトップはそっちですね。新卒でいきなりホテル部門に行かされて「俺がホテル!?」なんて思ってた人が今やトップ。
へえ〜。大企業も変化してるんですね。
ずっとビール部門にいる人より客観的に主力事業を見てるから。手腕としてもすごく優秀ですよ。
大手で出世するには1回主流から外れた方がいいってことですか。
そういう流れができてくるかもしれません。ただし出世思考の人がそもそも減ってます。
大企業で出世思考じゃない人っているんですか?
そっちの方も多いんですけどね。一見爽やかで、前向きで、与えられた仕事もしっかりこなす。だけど自分軸やビジョンや野望なんてあまりない。「平均やや上ぐらいをキープできればいい」という人たち。
そんな人たちで成り立つんですか?
出世したい人もゼロではないし、外から引っ張ってきてもいいし。真面目で優秀な人が現場にたくさんいるから。それで十分なんですよ。
石塚毅
(いしづか たけし)
1970年生まれ、新潟県出身。前職のリクルート時代は2008年度の年間MVP受賞をはじめ表彰多数。キャリア21年。
のべ6,000社2万件以上の求人担当実績を持つ求人のプロフェッショナル。
安田佳生
(やすだ よしお)
1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。