第60回 「半人前庭師さん」の持つ可能性

この対談について

庭師でもない。外構屋でもない。京都の老舗での修業を経て、現在は「家に着せる衣服の仕立屋さん(ガーメントデザイナー)」として活動する中島さん。そんな中島さんに「造園とガーメントの違い」「劣化する庭と成長する庭」「庭づくりにおすすめの石材・花・木」「そもそもなぜ庭が必要なのか」といった幅広い話をお聞きしていきます。

第60回 「半人前庭師さん」の持つ可能性

安田

最近「半人前大工さん」っていうのが流行ってるんですけど、聞いたことありますか?


中島

いや、初めて聞きました。それはどういうものなんでしょう?

安田

今、住宅業界って慢性的な人不足が続いていて。大工さんも足りないから、家が建てられない状況なんですよね。中でも若い世代で大工を目指す人が少なくて、せっかく学校に入っても辞めてしまう。


中島

そうですよね。どこの工務店さんも大変だと聞きます。

安田

でも趣味の世界ではDIYが流行っていて、ちょっとした家の修理や簡単なリフォームなら自分でやりたいという人は一定数いるわけです。そういう人たちにプロの大工さんが技術を教えるというスクールが神戸にあるそうで、その名前が「半人前大工さん」。


中島

へぇ、なるほど。「半人前大工」というからには、本格的に育成するというよりも趣味の延長って感じなんですかね。ごく基本的な技術を教えてくれるような。

安田

そうですそうです。講座の半分は座学で、大工の心得とか基礎的な内容を学ぶ。残りの半分が技術講習で、実際に木材を使って何かを作ったりするんだそうです。最初は数十人単位で始まったんですが、今では100人ぐらいすぐに埋まってしまうほど人気なんですって。


中島

それはすごいですね! それだけ興味を持っている人が多いということですよね。

安田

本業としてやるほどではないけど、個人的にこういう技術を学びたいって人が多いみたいです。自分の家を修理するだけじゃなく、友人の家の修理を手伝ったり、空き家をリフォームしたりもできるので。


中島

確かに、それはおもしろいですねぇ。副業としての可能性もありますし。

安田

そうなんです。で、その話を聞いて思ったんですけど、「半人前大工」と同じように、「半人前庭師」を作ったら人気が出るんじゃないかと思いまして(笑)。前回お話した「1人の庭師を育てる」のとはだいぶ違う方向のアプローチにはなりますけど。


中島

ははぁ、なるほど。「半人前庭師」ですか、それは考えたことなかったなぁ。

安田

庭全部を作ろうと思うと大変ですけど、基本的な技術を少し覚えて、自分のお庭をいじれるようになるくらいなら可能なんじゃないかと。そういう学校があってもおもしろいなと思いまして。


中島

確かにそうですね。一からお庭を作れるようになるにはかなり時間がかかりますけど、お庭をリフォームしたりというところまでならできるかもしれない。

安田

そうそう。例えば空き家を購入してリフォームする際にも、庭の手入れまで自分でできれば、家全体がさらに魅力的になり、販売価格も上がるかもしれません。


中島

なるほど。それはいいですね。実際、お庭によって家の第一印象は大きく変わりますから。

安田

そうですよね。2年くらいかけて空き家をリフォームしながら、お庭も整えて、素敵な住まいを提供する。最終的にはそれを販売したり、自分で住んでもいいわけで。


中島

自分で庭を作る楽しさも味わえますしね。

安田

中島さん自身が学校を作ったり教えたりする時間はないかもしれませんけど、造園業界全体でこういう取り組みを考えるのもおもしろい気がして。大工さんの業界では、素人や趣味の延長で技術を学ぶ人が増えていますし。

中島

そうですよね。お庭の世界でも同じような人が増えてくるかもしれませんね。特に剪定などの技術は需要がありそうです。

安田

ああ、なるほど。本格的に剪定を仕事にするのはハードルが高いかもしれませんけど、自分の庭を手入れするくらいの技術があれば、下手な外注に頼むよりもいいかもしれないですもんね。

中島

お隣の方から「うちの方もついでにお願いします」なんて、お願いされることもあるかもしれないし(笑)。

安田

そしたら副業にしていけばいいわけで(笑)。

中島

確かにそうですね(笑)。それはそれとして、技術の理解が進んだら僕も嬉しいなと思います。剪定って梳くように切った方がいいんですけど、バッサリと切られてしまっていることも多いので。

安田

なるほどなぁ。隣の家からはみ出ている木も、センスよく形を整えてあげるとお互いのストレスも減って喜ばれるかもしれません。

中島

ええ、本当に。そうやっていい空間が増えていくといいですね。

安田

建築業界と同じように、造園の業界もプロと素人の境目がはっきりしているところがありますよね。そこにちょっとした技術を持つ人が増えることで、業界全体が活性化するのではないかと。

中島

そう思います。シルバー人材センターの方にしても、1週間くらいで技術を教わっていきなり現場というのではなく、もう少し丁寧に教わる機会があればいいなぁと思っていたので。

安田

そうですよね。「資格をとって仕事にしよう」みたいな話ではなく、もっと好きなことの延長上で技術が身に着けられるようになったらいいなと。

中島

確かに、美味しいものを食べるのが好きとか、ファッションが好きとかと同じように、庭づくりが好きって人がいるかもしれませんもんね。そういう人が技術を身に付ければ、剪定一つとっても変わってくる気がします。

安田

そうですよ。うちの近所でも、ビルの1階に植えられている木なんかを定期的に手入れしてるんですけど、電動ノコギリのような機械で直線的に切るだけなんですよね。これって剪定と言えるのかな、なんて思ってしまって(笑)。

中島

難しいところですね(笑)。剪定は特に効率重視の傾向が強いので。切り方一つで、雰囲気が全然変わるんですけどね。

安田

お庭に情熱を持つ人たちにそういう技術を少しずつ教えていけば、新しい庭文化が生まれるかもしれませんよ。

中島

ははぁ、それは素晴らしいですね。日本中に美しいお庭がもっと増えていくといいなと思います。

安田

本当ですね。今は中島さんもお忙しいでしょうけど、将来的には、弟子が育ってから少しゆっくりした時間でやるとか。そんな未来もあるかもしれませんね。

 


対談している二人

中島 秀章(なかしま ひであき)
direct nagomi 株式会社 代表取締役

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高校卒業後、庭師を目指し庭の歴史の深い京都(株)植芳造園に入社(1996年)。3年後茨城支店へ転勤。2002・2003年、「茨城社長TVチャンピオン」にガーデニング王2連覇のアシスタントとして出場。2003年会社下請けとして独立。2011年に岐阜に戻り2022年direct nagomi(株)設立。現在に至る。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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