第300回 中小企業の新卒採用事情

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第300回「中小企業の新卒採用事情」


安田

今年も10月1日に内定式をやった会社がたくさんありまして。

久野

はい。多いですよね。

安田

内定式をやった会社でも、予定の内定者数を確保できた会社はすごく少ないそうです。

久野

私の周りもまだ採用活動してる会社が多いです。

安田

マイナビさんの調査によると8月末時点で内定率は9割以上あるらしいんすよ。早期内定を出す会社がすごく増えていて。

久野

はい。そういうイメージです。

安田

だけど採用予定人数の8割以上を確保できている会社は2割にも満たない。

久野

そんなに少ないんですか。

安田

はい。「全く予定数に届いてない」という会社が3割超え。10月1日以降も募集し続ける会社が半分以上あるらしいです。

久野

内定率90%ということは残り1割をこれから取り合うわけですね。

安田

あとは内定済の人をひっくり返すパターンですね。ここも狙ってると思います。

久野

10月1日は人事の担当者も戦々恐々としますよね。本当に来るかどうか。複数内定出てるケースもあるでしょうから。

安田

来ない人は必ず出てきますね。いくつか内定もらっていて10月1日に決める学生もいますから。10月1日以降も抜け続けるでしょうけど。

久野

そうですよね。入社まで半年もあるから何が起きるかわからない。増えるどころか減る可能性の方が高い。恐ろしい時代ですよ。

安田

久野さんって氷河期世代でしょ?環境が激変しましたね。

久野

はい。愚痴を言わせてもらうと本当に不遇世代なんです。就職はきつかったし、今になって「ゆとり世代」のマネージメントはやらせられるし。すぐにパワハラとかで怒られるし。

安田

若い子の給料を増やすために氷河期世代の給料が削られたり。

久野

そうそう。もう最低な世代って言われてます。

安田

そうですよね。当時は中小企業でもいい新卒が採用できて。定着率も高かったし育てやすかった。今はもう事情が全然違いますね。

久野

もうバブル期以上の争奪戦ですよ。数が激減してるので。

安田

バブルの頃もすごかったですけど。内定者を全員海外旅行に連れて行ったり。

久野

今もハワイで海外研修する会社が増えているそうです。

安田

なんと。そこまできましたか。囲い込みですね。

久野

でも今の学生ってそういうの嫌いなんですよ。みんなで一緒に行くとか。

安田

ある意味そこでふるいにかけるんでしょうね。囲い込まれる覚悟を試されているというか。

久野

そこまでやっても入社した瞬間に転職サイトに登録しますから。

安田

新卒の3割は入社時点で登録してるみたいですね。実際1年以内に辞める人もいますし。中小企業は3年で半分残らないって言いますから。 

久野

すごいコストをかけて採用してるのに。もう心が折れちゃいます。

安田

コストも手間もすごいですよ。新卒採用するのに何百万の費用と半年ぐらいの時間をかけて。もう中小企業が新卒を採用する時代は終わりじゃないかなと思います。

久野

そうですよね。大手ですら内定数が足りない状況なので。

安田

準大手の優良企業がテレビCMをガンガンやってるじゃないですか。あれ全部採用目的ですよ。大手でも知名度のないところはホント厳しくて。久野さんの会社はどうですか? 

久野

うちは新卒5人採れました。

安田

すごい。さすが採用力ありますね。

久野

いやいや。僕らは超ニッチな業界なので。社労士業界って新卒の募集がほとんどないんですよ。だから採れてるだけ。戦略がうまくいってるだけです。

安田

中小企業が新卒を採ろうと思ったらニッチ戦略しかないですよね。

久野

そう思います。

安田

1000人に1〜2人の変わった人とのマッチングを考えないと。 昔みたいにビジョンや社風を語るだけでは厳しいですよ。そもそも説明会に来ないし。

久野

安田さんは新卒コンサルやってたんですから、そんなこと言わないでください(笑)

安田

でも現実ですから。昔とは真逆の戦略でいかないと。一般受けしないニッチ採用戦略。大勢集めて選ぶ採用はもう無理です。

久野

そうですね。

安田

ナビに出す情報も変えないと。社風がいいですとか、仕事にやりがいがありますとか、先輩はこんなに楽しそうに働いてますとか、何も言ってないのと同じ。

久野

本当はニッチな採用をした方がいいんでしょうけど。中小企業の経営者さんってそこで勝負したくないんですよ。王道で採りたいんです。普通のいい大学生を採りたいんですよ。

安田

気持ちはわかりますけど。それで成功してますか?

久野

いや、うまくいってないですね。でも諦めたくないんです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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