このコラムについて
「担当者は売り上げや組織の変革より、社内での自分の評価を最も気にしている」「夜の世界では、配慮と遠慮の絶妙なバランスが必要」「本音でぶつかる義理と人情の営業スタイルだけでは絶対に通用しない」
設立5年にして大手企業向け研修を多数手がけるたかまり株式会社。中小企業出身者をはじめフリーランスのネットワークで構成される同社は、いかにして大手のフトコロに飛び込み、ココロをつかんでいったのか。代表の高松秀樹が、大手企業とつきあう作法を具体的なエピソードを通して伝授します。
本日のお作法/たった1日のOFF-JT
「あのオッサン、元気?」
「暑苦しい人だったけど、俺、今でも思い出すんだよね。『たった1日だけの付き合い』だったけどさ」
そんな声を聞いたのは、
ある大手メーカーの「現場リーダー研修」の会場でした。
その「オッサン」の名は、Kさん。
数年前にこの世を去ってしまった「現場出身」の研修講師。
Kさんは、今からおよそ50年前、
高卒で社会人となり、大阪の工場に配属されました。
当時の職場といえば──
「怒鳴る、叩く、無茶ぶりする」 が日常茶飯事。
今なら「完全にアウト」な光景ばかりだったようです。
けれどKさんは、よく笑ってこう語っていました。
「ぼくは職場や上司に恵まれたよ」
「理不尽だったり、怖かったりしたけど、愛のある怒鳴り声もあったからね」
そんな彼は30代半ばで現場を離れ、「育てる側」として、全国の生産現場などを飛び回るようになりました。
テーマは「現場リーダーの影響力発揮」。
受講生の多くは、「班長や工長、作業長」と呼ばれ、現場の指導者ではあるものの、若手に混じって、毎日現場で汗をかく人たち。
学びの場に慣れている人ばかりではありません。。
そんな彼らに向けて、Kさんは、大きな声で、身振り手振りを交え、時に一人ひとりの目をじっと見ながら語っていました。
「お前が『怒鳴られてきた側』なんやったら、次の人には『怒鳴らんでもええ現場』を残したれよ」
「リーダーや言うても、偉そうにする必要はない」
「『雑談ができる職場』を作ったらええねん」
「雑談もできない人間に、『本音の相談』なんてするわけない」
「若い奴らにイジられたりしたら、『ふざけるな!舐めるなや!』なんて思うなよ」
「『寄ってきてくれて、ありがとう』やろ」
「『気軽に声がけされる人間』になったらええねん」
正直、言葉は荒っぽい。。
でも、受講生の中には、そんな彼の姿に、
「ウザいけど、なんだか親しみや人の温かさ」を感じた人も多かったようで。
先日も、別の大手さんでの研修に参加したとき、
受講生である、「現場リーダーさん」に声をかけられました。
「Kさん、元気? 俺、7年前にあのオヤッさんの研修受けたんだよ」
「あ、俺も受けてたよ」
「あの人、暑苦しいし、しつこいくらいに話しかけてくるけど、どこの会社でもあんななの?」
「Kさんが現場見学に来た時に、たまたま会ったんやけどさ、ちゃんと俺の名前、覚えてくれてて、大袈裟に握手してくるんよ」
その場にいた数人の方が思い出を口にします。
「正直、あのときはピンと来なかったけど。今になって、あのオッサンの言ってたこと、わかるよ」
「あの人は、『現場をよくわかってくれてる人』だったよな」
このようにKさんにまつわるお話を、ここ数ヶ月でいくつもの大手さんにて、「20名を超える人たち」から聞かせていただきました。
「何を教えるか」も大切ですが、「誰から教わったか」はとても大切なようです。
Kさんはよく話していました。
「研修なんて、筆記用具出して、俺が話した言葉をメモしたりしなくてええねん」
「自分の現場の様子を思い出しながら、『ちょっとだけ居心地良くできるかもな』って考えてくれたら、それでええねん」
「みんなの記憶に残そうなんて講師が思ったら、それはただの『傲慢』やよ」
たった1日のOFF-JT。
でも、そんな「一瞬の時間」が、10年経っても心にずっと残り続けることもあるようなのです。
「素敵なオヤッさん」との思い出がよみがえってきたのであります。