第70回 オーストラリアに町のケーキ屋がない理由

この対談について

地元国立大学を卒業後、父から引き継いだのは演歌が流れ日本人形が飾られたケーキ屋。そんなお店をいったいどのようにしてメディア取材の殺到する人気店へと変貌させたのかーー。株式会社モンテドールの代表取締役兼オーナーパティシエ・スギタマサユキさんの半生とお菓子作りにかける情熱を、安田佳生が深掘りします。

第70回 オーストラリアに町のケーキ屋がない理由

安田

前回はゴールドコーストマラソンに出場したお話をお聞きしましたが、今日はスギタさんから見た「オーストラリアの飲食店」についてお聞きしたくて。現地の名物って何かありましたか?


スギタ

それでいうと、ハンバーガーとステーキが定番ですね。観光客向けにカンガルーやワニのステーキもありますけど、地元の人はあんまり食べないらしいです。

安田

へぇ、確かにカンガルーやワニは普段食べる感じじゃないですよね。イタリアンとかもありました?


スギタ

すごく多かったです。むしろピザやパスタはどの店にもあるイメージですね。逆にフレンチは全然見かけなくて。

安田

ああ、アメリカもそうですよね。サンフランシスコみたいな都会じゃないとフレンチはなかなかない。


スギタ

確かに確かに。考えてみたら面白いですね。どうしてなんでしょう?

安田

イタリアンの方が取り入れやすいんでしょうね。肉にパパッと塩コショウしてバーンと焼く、みたいな(笑)。


スギタ

そうかもしれません(笑)。あと驚いたのが、個人経営のパン屋やケーキ屋がほとんどないんです。チェーン店ばかりで。

安田

へぇ、そうなんですね。それはオーストラリア企業のチェーン店ということですか?


スギタ

そうみたいですね。現地で日本人の方とも話したんですが、いわゆる家族経営みたいなお店はほとんどないらしくて。ゴールドコーストに限らずオーストラリア全体がそういう感じみたいですよ。

安田

へぇ〜、そうなんですね。なんとなく意外ではありますけど。


スギタ

アメリカに行ったときも似たような感じでしたね。チェーンや大型店ばかりで、しかも高い。クロワッサンが500〜600円、サンドイッチが1500円とか。体感として日本の2〜3倍って感じでした。

安田

は〜、ランチ2人で行ったら、2000円は余裕で超えそうですね。でもハワイと比べたらまだ安いんじゃないですか?


スギタ

僕もそう思ってたんですけど、実際行ってみるとほぼ同じくらいの感覚です。28年前にホームステイしたときは、ハンバーガー1個300円でしたけど、今は1500円とかですから。

安田

30年で5倍になっていると。現地の人たちの給与もそれくらい上がってるんですか?


スギタ

そうですね。19歳の最低賃金が時給3000〜4000円で、週末は時給5000円らしいです。

安田

それはすごいなぁ。でも収入が5倍になったところで、物価も5倍なんですもんね。そう考えるとあまり羨ましい話でもないのかもしれない。もっとも、今の日本の物価は安すぎですけどね。

スギタ

そうなんですよ。この円安のせいで、現地にいると日本の安さに驚かされます。

安田

海外から見ればそんな状況なのに、日本人はこの状況で「物価が高い!」と言っている。この間の選挙でも、「物価対策」が争点でしたし。なんだか心配になりますよ。


スギタ

そうでしたね。「給付金配ります!」とか、「消費税下げます!」とか、声高に叫んでましたもんね。

安田

物価は本来、徐々に上がっていくのが健全なんですよ。ただ「物価は上がっていく方がいいんです」なんて言ったら、選挙で勝てなくなっちゃう(笑)。

スギタ

確かに(笑)。そう考えると、ここ何十年も上がってこなかった方が不自然なんでしょうね。

安田

仰るとおりで。大卒の初任給が20万円で、それが20年くらい続いた。その間、物価も横ばいで。

スギタ

それってすごいことですよね。でもさすがに少しずつ変わり始めていると。

安田

ええ。いろいろなコストが上がって値上げをせざるを得ない状況になってきたのと、深刻な人材不足が同時に来てる感じですよね。給与も相当上げないといい人材が採用できなくなってきて。まあ「ようやく動き出したな」という印象です。

スギタ

うちの業界もまさにそうですね。原材料も人件費も上がっていて、商品価格を上げざるを得ない。今後、最低賃金を1500円にするなんて話も出てますし、「物価も給料もガンガン上げて海外に並ぼう」というのが国のビジョンなんですかね。

安田

一応そうなってますが、その頃には世界も同時に上がっていくので、それ以上のスピードで上げなきゃ追いつけないんですけどね。とはいえ急に上げすぎると企業が耐え切れずにどんどん潰れてしまう。

スギタ

なるほどなぁ。オーストラリアやアメリカのように、寡占化が進んで個人店が淘汰される未来が日本にも来るかもしれないですね。なんとなく寂しい気もしますが。

安田

今後は「値上げしてもお客が離れない店」しか生き残れないでしょうから、必然的に数は減っていくと思いますよ。仰る通り寂しいことではありますが、それが現実なんですよね。

スギタ

ええ。オーストラリアに行って、それがリアルに見えた気がします。

 


対談している二人

スギタ マサユキ
株式会社モンテドール 代表取締役

1979年生まれ、広島県広島市出身。幼少期より「家業である洋菓子店を継ぐ!」と豪語していたが、一転して大学に進学することを決意。その後再び継ぐことを決め修行から戻って来るも、先代のケーキ屋を壊して新しくケーキ屋をつくってしまう。株式会社モンテドール代表取締役。現在は広島県広島市にて、洋菓子店「Harvest time 」、パン屋「sugita bakery」の二店舗を展開。オーナーパティシエとして、日々の製造や商品開発に奮闘中。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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