第85回 老化もリストラも、視点を変えれば「正常」になる

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第85回 老化もリストラも、視点を変えれば「正常」になる

安田

最近ふと「正常と異常の境目ってなんだろう?」と考えさせられることがありまして。


藤原

ああ、Xでもポストされてましたね。

安田

ええ。私自身のことでいうと、もう60歳なので体のあちこちが痛くなったり、色々起こるわけです。特に最近、飛蚊症が進んで視界がぼやけてきちゃって。


藤原

ああ、それは大変ですね。目が見えにくいと結構なストレスになりますから。

安田

そうなんです。でも考えてみたら、さまざまな老化のパターンがある中で、「目が見えにくい」ぐらいならラッキーな方なんじゃないかとも思うんです。人間、生きてたら老化は避けられないわけで。


藤原

確かに、全く老いないということは不可能ですからね。そういう意味では「自然なこと」だとも言える。

安田

そうそう。だから老化を「正常」だと捉えたらどうだろうと。確かに不便はあるけれど、「異常事態だ!」と嘆くのではなくて、「60歳なら、まあ正常な範囲だろう」と考えた方が精神衛生上もいいよなと。


藤原

なるほど。要するに「正しく老化しているに過ぎない」と考えたわけですね。僕も最近、膝を痛めたりしてますけど、それも自然の摂理からすれば「正常」なのかもしれない。「異常だ!」と感じる方がそれこそ異常なのかも(笑)。

安田

そうかもしれません(笑)。この話って、会社経営などにも当てはまると思うんですよ。「黒字なのにリストラをする会社は異常だ」なんて意見を聞くと、経済活動的には「正常」な判断の結果なのでは? と思ったり。


藤原

ああ、分かります。労働者の視点から見れば「異常」な経営かもしれない。だけど株主や経営者の視点から見れば、将来の市場縮小に備えるための極めて合理的で「正常」な経営判断だったりする。

安田

ええ。どちらが正しいというより、どの立場に立つかで「正常」の定義が変わってしまうんですよね。もっとスケールを大きくすれば、地球温暖化だってそうかもしれない。


藤原

確かに確かに。人間の視点で見れば、住環境が脅かされる「異常事態」ですからね。でも何億年という地球の歴史で見れば、これは「正常」な気候変動のサイクルの一部とも言える。人間の時間軸と地球の時間軸では、スケールが違いすぎるんですよね。

安田

そう考えると、人間が自分たちの繁栄を「正常」だと思っていること自体が、地球から見ればよっぽど「異常事態」だったりして(笑)。


藤原

まさに(笑)。結局、何をもって正常とするかは、時代背景や「どの視点に立つか」で全く変わってくるんでしょうね。

安田

そう思います。だから親が年老いて病気になったりすることも、もちろん感情的には悲しいですが、ある年齢になればそれは自然なことなわけです。つまり「正常」なライフサイクルの一部でしかない。


藤原

それをどう受け止めるかで、その後の人生の豊かさも変わってくるんでしょうね。自分の身に起こる不都合な出来事を、すぐに「異常だ」と切り捨てて慌てるのか、「これもまた正常な変化の一部だ」と受け止めて次の手を考えるのか。

安田

最近の税金の問題もそうですよ。「国が国民から税金を取りすぎだ!」と大問題になってるじゃないですか。でもそもそも「払った税金以上の行政サービスを受けて当たり前」という考え方は「正常」なんだろうかと。


藤原

いやもう、それは全く違いますよね。個人的には、むしろその考え方が異常なんじゃないかという気さえします。

安田

でしょう? これだけ人口が減っていく中で、誰がやっても財源は足りないんです。多くの国民にとって、実は払った以上のリターンを得ているからこそ、国は毎年赤字を増やしているわけで。


藤原

国の運営で考えたら、ほとんどの人が払ったお金未満のサービスしか受け取れない方が「正常」ですよね。そうでなければ国家財政は成り立たない。

安田

そうなんですよ。普通の会社だったら、当たり前の話なんですけどね。

藤原

国民が10払ったら、せいぜい6か7くらいのリターンがあるのが、ちょうどいい塩梅なのかもしれません。

安田

そう考えると少子化も同じ構図に見えてきます。日本だけの問題じゃなく、世界的に先進国では子どもが減っているわけですから。

藤原

ええ、豊かさと出生率の低下には相関があると言われていますね。

安田

ある程度豊かになると、種としての人間が子供を産まなくなって減っていく。これは私たち人間の視点から見れば「異常事態」です。でも地球環境から見たら、はたしてどうなんだろうと。

藤原

増えすぎた人類が少し減って、バランスが取れていく。地球にとっては「正常」な動き、と言えるかもしれませんね。

安田

増えすぎていた一種の生き物が、自然に淘汰されていく。ある意味、正常なサイクルの中にあるのかもしれないですよね。

藤原

同感です。目に見えない大きな力が働いて、文明的で地球に負荷をかける先進国の人口は減らし、一方で途上国の人口は増やすことで、地球全体のバランスを取っているのかもしれない。

安田

本当に、捉え方一つで全く見え方が変わってきますね。安易に「異常事態」と決めつけて騒ぐのではなく、一度立ち止まって、何を持って「異常」とするのかを考えないと。

藤原

その通りだと思います。自分の身に起こることも、まずは「これも正常の範囲内の出来事かもしれない」という認識から入ると、少し楽になれるのかもしれません。

安田

冷静に考えれば、日常で起こることの99%は、何かしらの文脈においては「正常」なことのはずなんです。かつての日本で当たり前だった終身雇用だって、経済が成長し続けるっていう特殊な時代の「正常」だっただけで、今となってはそっちの方が「異常」なわけですから。

藤原

ははぁ、本当にそうですね。自分が信じている「普通」や「当たり前」を一度疑ってみる。それが、変化の激しい時代を穏やかに生きていくための、一つの知恵なのかもしれませんね。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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