第339回 必要なのはキャッシュと勇気

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第339回「必要なのはキャッシュと勇気」


安田

全国の最低賃金がようやく1000円を超えましたね。

久野

はい。前年度から63円の大幅引き上げで全国加重平均が1,118円になります。一番低かった秋田県もようやく1000円を超えます。

安田

どんな影響が出ると思いますか?

久野

正直ほとんど影響ないと思います。そもそも地方は人がいないから最低賃金では人が採れないんです。外国人を最低賃金で雇っているケースはありますけど。

安田

じゃあ、ほとんど効果はない?

久野

いえ。最低賃金を上げると中間層も上がっていくので。効果はあります。

安田

つまり最低賃金を上げる目的は「最低賃金で働く人の収入を増やす」ことではなく、「全員の収入を上げよう」ってことなんですね。

久野

そうです。時間はかかりますが、最低賃金を上げると徐々に国家全体の賃金が押し上がる。

安田

なるほど。

久野

今年は6%上がりますので、じわじわ1年ぐらいかけて全体的にも5%ぐらい上がります。

安田

そういうことなんですね。

久野

はい。元々1000円以下で雇っているところはほとんどないと思います。

安田

地方は会社が少ないイメージですけど。そんなに人の取り合いは激しいんですか?

久野

たとえば秋田の最低賃金は951円だったんですけど。東京が1163円なので212円の差がありますよね。これだけ差があるとリモートでどんどん人材を取られちゃう。

安田

確かに。そうなりますよね。

久野

最低賃金が上がると全国的に人件費がどんどん上がっていきます。ただ地方の会社は人件費を上げる体制がまだ出来ていないので。

安田

淘汰されていくことになる?

久野

はい。とはいえ人件費が低いのは社会にとってあまりいいことじゃないので。どんどん上げていったらいいと思います。

安田

ちなみに石破さんは2020年代に最低賃金1500円を実現すると言ってますね。

久野

2020年代に1500円にしようと思うと7.3%ずつ上げないといけないんです。

安田

7%ずつ上がるって経済成長で言ったらすごい数字ですよね。

久野

年収500万だったら毎年35万ですよ。3年で600万になるんです。

安田

すごいですね。本当にやるんでしょうか?

久野

選挙も終わってしがらみのない政党が伸びてきてるから加速する可能性はあります。

安田

これだけ不景気と言われてますけど日本株って大人気じゃないですか。円安だから日本株はお買い得らしくて。

久野

そうなんですよ。適度なインフレと物価に合わせた賃金アップはもう不可欠だと思います。

安田

日本の物価はちょっと安すぎますよね。みんな高い高いって言いますけど。海外に行った人なら分かりますけど日本だけが異常に安いっていう。

久野

1500円でもランチ食べられませんから。もうカルチャーショックですよ。

安田

物価も賃金も世界標準に上げていかないと。どんどん海外資本に買われてしまいますね。

久野

これから加速するとは思いますけど。ただ毎年7%も上げたら相当な企業が終わっていきます。

安田

7%アップに耐えられない会社は淘汰されるってことですね。

久野

普通は耐えられないですよ。今の人件費に7%上げたら利益が1円も出ない会社がほとんどだから。

安田

確かに。そんなに利益出てないですよね。

久野

労働分配率50%だとしても営業利益率が3.5%ずつ消えていく感じ。優良企業でも3年持たないくらい厳しい数字です。中小企業なんて利益が10%あったらいい方ですから。

安田

当然のことながら人件費を上げるためには売上も利益も上げていかなくちゃいけない。

久野

はい。売上が伸びなかったらもうアウトですね。売上だけは絶対に上がってなきゃいけない。これは間違いないです。

安田

労働分配率が50%だとしたら、売上は毎年14%伸びないとダメってことですよね。

久野

14%では無理じゃないですか。年20%ぐらい伸びてないと生産性は上げられない。

安田

そんなに!

久野

量をやるから生産性も上がってくわけで。あるいは独自性を思いっきり強化して小さくても利益が出るようにするか。中途半端な組織がいちばん危ないでしょうね。

安田

東京なんてあっという間に1500円は超えるでしょうね。

久野

もう2000円超えは現実的ですよ。

安田

コンビニのアルバイトでも30万ぐらい稼げますね。時給2000円だったら。

久野

そうですね。160時間働いたら32万円ですから。

安田

さすがにそうなったら景気も良くなっていくんじゃないですか。みんなお金を使うだろうし。ランチにも1500円ぐらい出すでしょ。

久野

出すでしょうね。収入が増えないからお金使えないだけで。

安田

問題は順番ですよね。先に利益が増えるのか人件費が増えるのか。

久野

これまでは「儲かったら給与を増やす」っていう話だったと思うんです。でもこれからは先に給与を増やすことを考えないとダメ。

安田

そのためには何が必要ですか?

久野

キャッシュと勇気でしょうね。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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