第306回 「日本人だけでは回らない」時代の人材戦略

 このコラムについて 

「担当者は売り上げや組織の変革より、社内での自分の評価を最も気にしている」「夜の世界では、配慮と遠慮の絶妙なバランスが必要」「本音でぶつかる義理と人情の営業スタイルだけでは絶対に通用しない」
設立5年にして大手企業向け研修を多数手がけるたかまり株式会社。中小企業出身者をはじめフリーランスのネットワークで構成される同社は、いかにして大手のフトコロに飛び込み、ココロをつかんでいったのか。代表の高松秀樹が、大手企業とつきあう作法を具体的なエピソードを通して伝授します。

本日のお作法/「日本人だけでは回らない」時代の人材戦略

 

先日のこと。宅配事業における「国内最大手」“ヤマト運輸”が、「ベトナム最大」のIT企業“FPTソフトウェア”の日本法人である「FPTジャパンホールディングス」と連携し、外国人トラックドライバーの“採用・育成”“本格着手”することを発表しました。

FPTジャパンは、2027年までにベトナムから“毎年100人規模”で大型トラックドライバーを採用する計画です。

これは「物流業界」のみならず、日本の「労働市場全体」“波紋”を広げる可能性を秘めています。

注目すべきは、その「育成設計」の丁寧さです。現地で半年、日本で1年の準備期間を経て、特定技能1号として入社するまでに計1年半。日本語教育、安全運転教育、文化適応支援まで含めた“オーダーメイド型”の人材投資が行われるのです。

このプロセスには、ヤマトが物流の未来を見据えた“本気度”が表れています。

背景には、日本の運送業界の「慢性的な人手不足」があります。ドライバーの平均年齢は50歳を超え、若い世代の新規参入も限られている。2024年問題による労働時間規制も重なり、輸送力の確保は業界の生死を分ける課題となっています。

もはや「賃金を上げれば人が集まる」という単純な構図は崩れており、企業は、採用コストを投じてでも海外に目を向けざるを得ないのが現実でしょう。

この取り組みは、「労働市場のグローバル化」の象徴だといえます。特定技能制度の活用により、日本企業は“海外人材の育成力こそが競争力”になるという認識にシフトしつつあるのです。

日本人だけで完結する労働構造はもはや過去のもの。外国人を「戦力」として迎える覚悟と仕組みが求められているのです。

大手各社の職場でも、「日本人だけでは回らない」と感じる場面が急激に増えているのではないでしょうか。

ヤマトの先行事例が成功すれば、建設、介護、外食など他業界への波及も加速するでしょう。

問われているのは、単なる労働力確保ではなく、いかに共に働き、育ち、定着していけるかという“共生の設計力”。それは、職場のマネジメントや管理職の育成方針にも通じる視点かもしれません。

実際、ある大手物流会社のマネジメント研修でこのヤマトの取り組みを紹介したところ、「自社もこのままでは人が確保できない」と、強い危機感を抱いた声が聞かれました。

“国内完結の働き方”という常識は、静かに、でも勢い強く崩れ始めているのであります。

 

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高松 秀樹(たかまつ ひでき)

たかまり株式会社 代表取締役
株式会社BFI 取締役委託副社長

1973年生まれ。川崎育ち。
1997年より、小さな会社にて中小・ベンチャー企業様の採用・育成支援事業に従事。
2002年よりスポーツバー、スイーツショップを営むも5年で終える。。
2007年以降、大手の作法を嗜み、業界・規模を問わず人材育成、組織開発、教育研修事業に携わり、多くの企業や団体、研修講師のサポートに勤しむ。

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