記録的な猛暑が続く今夏。氷系商品(アイス)が爆発的に売れ、なかには商品の一時販売休止に追い込まれているメーカーも出始めているらしい。
氷系商品の代表格といえば、赤城乳業の『ガリガリ君』である。1981年の発売以来、35年以上に渡って売れ続け、いまでも新作が出るたびに話題を集める。その存在感は、まさに業界のレジェンドといってもよいであろう。
そんなお化け商品の開発者で育ての親でもあるのが同社監査役の鈴木政次さん。人気講師としても活躍する鈴木さんのお話は、ネーミングライターとしても非常に学ぶ点が多い。なかでも興味深いのは「どうすれば、商品に愛着を持ってもらえるか」という視点である。
『ガリガリ君」のネーミングは、アイスをスプーンで削るときの音からきているが、鈴木さんによれば、『ガリガリ君』は、当初『ガリガリ』で発売する予定だったという。
それが発売直前、メンバーから「いいんだけど、何かひと味足りないなぁ」という意見が出て、担当役員に相談したところ、「“君”を付ければ、楽しくなるんじゃないか」という提案があって、ガリガリ君になったのだという。
鈴木さんは、言う。
「ガリガリでは、単なる修飾語で、なんだかよくわかりません。ですが、人の名前のように固有名詞にした瞬間から個性が生まれ、愛着も湧きやすくなり、覚えてもらえるようになったのだと思います」
たしかに、わずか一文字ではあるが、「ガリガリ」と「ガリガリ君」では印象の残り方がまったく異なる。ガリガリ君だからこそ、感情が芽生え、ストーリーがふくらみ、それを人に伝えたくなるのである。
ちなみに赤城乳業では、アイスを作る機械にも一台一台「あいちゃん」「スザンヌ」「イチロー」といった人の名前を付けている。
「あいちゃん、今日も絶好調」「スザンヌは、ちょっとご機嫌斜め。いい子、いい子してあげないと」工場内で、こんな会話が交わされているかと思うとなんだか楽しい気持ちになるし、きっと同社は生産性も高いのではないだろうか。
食べ物やモノに人の名前に付けることで、命が宿る。
「どうか、この暑さのせいで、ガリガリ君が製造中止になりませんように」などと祈ってしまうのも、八百万の神を信じる日本人ならでは感性なのだろう。
赤城乳業株式会社HPより
(https://www.akagi.com/company/index.html)