【連載第33回】これからの採用が学べる小説『HR』:第4話(SCENE: 050)

HR  第4話『正しいこと、の連鎖執筆:ROU KODAMA

この小説について
広告業界のHR畑(求人事業)で勤務する若き営業マン村本。自分を「やり手」と信じて疑わない彼の葛藤と成長を描く連載小説です。突然言い渡される異動辞令、その行き先「HR特別室」で彼を迎えたのは、個性的過ぎるメンバーたちだった。彼はここで一体何に気付き、何を学ぶのか……。これまでの投稿はコチラをご覧ください。

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 SCENE:050


 

 

降りてきたのは、保科と室長だった。

二人は雑居ビルの貧相なエレベーターとこの落ち着いたバーとのギャップに驚く素振りも見せず、何事かを話しながらカウンターに近づいてきた。室長がまるでバスケットのシュートを打つような素振りをし、それを保科が呆れるような目で見ている。

やがて室長が俺に気づき、「おや」と目を丸くする。

「これは珍しい、ええと……」

「……村本です」

驚きを隠しつつ、何度目なのかわからないやりとりをする。どうしてここに室長たちが現れるのか。いや、入店時の様子を思えば、2人はこの店が初めてではないのだろう。慣れた雰囲気の高橋同様、常連客なのかもしれない。

だが、俺は覚えていた。今回の案件をどうするのか、そう聞いた俺に対し、その答えはもうすぐやってくると高橋は言ったのだ。

――あの2人が答え、なのか?

戸惑う俺をよそに高橋は、「ね、向こう、いい?」とテーブル席の方を指差した。バーテンダーは「かしこまりました」と頭を下げる。

「お飲み物はこちらでお持ちしますので、皆様どうぞあちらへ」

礼を言ってテーブル席へと移動する高橋に、保科と室長が続いた。俺も慌てて後を追う。格子柄のパーテーションで半個室のようになった4人席。高橋と保科が隣に座り、向かい側に高橋、俺は空いた席に座るしかない。

すぐにバーテンダーが俺たちのグラスと新しいおしぼりを持ってやってきた。室長はスコッチの水割り、保科は烏龍茶をオーダーする。

それらが運ばれてくると、高橋は乾杯をする間もなく言った。

「で? どうだったの」

いたずらを企む子供のような目。それを室長も嬉しそうに受け止め、うふふ、と笑う。

「いやあ、君の人脈は恐ろしいなあ。確かに見つけたよ」

「何よ、見つけてから言ってるんだから、当たり前でしょ。そんなことより、話はできたの?」

「ああ、随分と長い話をね」

室長は手元の重厚なグラスを掲げ、薄茶色の液体をゆっくりと飲む。

「海が見える丘の施設でね。ありゃもう、ホテルみたいなもんだな。僕、羨ましくなっちゃったよ」

「もう、そんなことどうでもいいわよ。どんな話をしたのか早く言いなさいよ」

「うん、まあ、最初は驚いとったが、僕が後輩だと知って安心したようでね」

「ああ」

「どうしてあの人たちは、自分と同じ大学の卒業者だっていうだけで、あんなに急に態度を変えるんだろうね。……それに先方、僕のこと知っててさ。ああ、君が宇田川君か! とか言って」

「あら、さすが有名人」

有名人? 室長が?

話の内容もさっぱりわからないが、室長が有名人だというのもさっぱりわからない。答えを探すように向かい側を見ると、テーブルに置かれた烏龍茶をストローですすりつつスマホをいじっていた保科が俺の視線に気づき、「バスケだよ」とボソリと言った。

「バスケ?」

「ああ、このオッサン、こう見えてバスケの元有名選手」

えっ、と思い、室長の方を見る。

「うふふ、まあ、そうなんだよねえ」

「元でしょ、元」

高橋が冷たくツッコみ、「でも、ほんと使えるわよね、その経歴。羨ましいわ」と遠くを見るような目をする。

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