泉一也の『日本人の取扱説明書』第34回「士の国(前編)」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第34回「士の国(前編)」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

士のついた職業がたくさんある。弁護士、弁理士、司法書士、行政書士、税理士、公認会計士、一級建築士、不動産鑑定士などなど。一般に士業(しぎょう、サムライギョウ)といわれている。サムライとは武士のことであるが、士業の方々は「武」をつかさどる人ではない。武でなく、法によって健全な社会を築く専門家である。士業をサムライ業と呼ぶのは、日本人が “サムライ”に社会的価値を見出すからだろう。このサムライの価値を知るため、まずサムライが武人の集団つまり軍人との違いから見ていこう。

軍人が国家を統べる「軍事政権」では、武力によって国を統制するので、嫌が応でも恐怖政治となる。武力で「おどし」を効かせ、反乱と犯罪を押さえ込み社会の安定を保つのだ。ドスの効いた怖い先生がやんちゃな中学生を押さえて学校の安定を図るのと何ら変わらない。この軍事政権が新たな政権に変わるときは、武力(暴力)によるクーデターか、他国の武力による制圧がきっかけとなる。武力には武力でしか変えることができない。

参考までに、お隣の北朝鮮ではトップ一人に全権力を集中させ、軍が社会に睨みをきかせ安定を保っている。これを軍事独裁政権という。ここにプロパガンダ(政治的宣伝)を加えて意思統一を図れば、国民に一体感がうまれ、トップの指し示す方向に国を動かしやすくなる。軍事独裁政権では、軍備の増強、政治放送と政治教育、そして反抗分子の抑制と排除に力をかける。軍事独裁政権とは国を安定的に発展させる一つのスタイルである。

日本も同じように明治以降、軍事政権&軍国主義(外交手段が戦争)への道を歩んだと習ったかもしれないが、実際は民主政権であり、外交は対話による平和外交と和平外交を主とした。戦時下にあってもクーデターはなく政権が民主的に変わっている。ただ、今と違うのは大日本帝国の軍は「統帥権」という政府の管理下(シビリアンコントロール)にない「特権」を持っていた。主権を持つ天皇から与えられた上位の権利である。日本ではヒトラーのようなカリスマリーダーがいなかったことで、統帥権を傘に軍の恐怖支配とプロパガンダがじわりじわりと広がっていった。気付いた時には軍人が政権に大きな影響を与え、天皇も制御できない状態になった。西洋からの輸入品であった軍人をサムライに見立て、殿様の家来のごとくにしてしまったのだ。

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