「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第14回 「カルロスゴーンとは、何だったのか」
前回第13回は「5年以内に、何かが起こる?」
ゴーン事件について、聞いてもいいですか?
ゴーン事件ですか。
意見が二つに分かれてるじゃないですか。
そうなんですか?
「会社の金を横領してた悪いやつ」みたいな人と「感情的になってるだけで、どう見ても無実でしょ」みたいな人。どっち派なんですか、泉さん。
私ですか。どっち派でもないですね。織田信長の時と似てると思ってます。
織田信長ですか?ずいぶん飛躍しましたね。
やっぱり1人に権力集中させすぎると、ああいう明智光秀みたいのが出てきたりするんですよ。
じゃあ、ゴーンさんは織田信長?
織田信長のやり方が良かったのかどうかは、いろいろ賛否両論あるじゃないですか。
比叡山も焼きましたしね。
その時の状態と似てると思ってます。何が正しいのかは、私も法律家ではないので分からない。
何が正しいのかなんて、状況によって変わりますもんね。
はい。正しいかどうかはともかく、権力を集中させると「ああいうことが起こるんだな」って感じですね。
ああいうことっていうのは「会社の金を私物化して使いこんだ」ってことですよね。
それが合法かどうか置いといて、周りの役員も知らないところで「いろんなお金」が動いていた。
でも、会社のお金を動かすだけなら、普通のことでは?
暴走してるように周りが感じて「明智光秀にやられてしまった」という感じですね。
ということは、クーデターを起こした役員さんたちが明智光秀?
そうです。全部情報共有して、相談してやってたら、あんなこと起こるはずがないので。
社内の問題ですもんね。「知らない間に、こんなことに使われてた!」って社内の誰かが言い出さなければ、こうなってない。
ナンバー2ですら、あんなに大きなお金の流れを知らないわけですよ。それ自体が問題かなと思いますけど。
「給料として取っときゃよかっただけ」の話だと思うんですけど。世間体とか社内でのイメージとかを気にしたんですかね?
分かりませんけど。既にものすごい額を取ってましたからね。
たとえば「織田信長がいなかったら、歴史は300年遅れていたかもしれない」なんて言われてるじゃないですか。
確実に遅れてるでしょうね。そういう意味ではやはり偉人ですよ。
じゃあ、改革者として必要な偉人でも、ずっと長期に渡って権力を握ってしまうのは良くない?
そう思いますね。
徳川家康なんかは、長期政権でも成功しましたけど。何が違かったんですか?
あれは織田信長と豊臣秀吉がいたからです。あの2人がいなかったら、徳川家康だけでは太平の世は作れなかったと思いますよ。
最後の仕上げとしての「太平の世づくり」に向いてたってことですか。
そう、そこに向いていただけの話。そういう順番だったわけです。
なるほど。ということはゴーンさんが革命して、その後に徳川家康的な人に任せておけばよかったってことですか?
うまいことバトンタッチできたらよかったんですけどね。いろんな思惑がどんどん入ってくるんでしょうね、力を持つと。
権力って、捨て難くなるんですよ。私も経験ありますけど。
人から「凄い」って言われたり、自分で「もっと大きなことをやりたい」とか思い始めると、暴走し始めるんでしょうね。
でもゴーンさんの立場で考えると微妙ですよね?
どういう部分が?
だって、言ったら「ルノーに身売りしちゃった」みたいなもんじゃないですか。お金がなくて、自分たちじゃ立て直せなくて。
それは、その通りですね。
ルノーに助けてもらって、ゴーンさんを送り込んでもらって。その時点で、もう自分たちの会社とは言えないような気がします。
まあルノーだって、慈善事業でやってるわけじゃないですからね。
ですよね。でもうまく行くようになったら「あいつらのために働いてるんじゃないぞ」みたいな感情が出てくる。
理不尽さを感じるんでしょうね。「向こうばっかり儲かって、こっちは持って行かれるばっかり」みたいな。
でも、どうなんですかね。駄目になって立て直してもらって、うまく行ったら「日本人だけでやらせてくれ」っていうのは。
心情的には理解できます。
心情的には分かるんですけどね。でも、徳川太平の時代とは違うじゃないですか。
まだ激動期の真っ只中ですからね。
ですよね。いろんな大企業から、不正が出てくるぐらいの激動期。
はい。
「どうやってグローバル競争に勝っていくんだ」って時に、ゴーンさんがいいか悪いかはともかく、サラリーマン経営陣だけで乗り切れるんですか?
いや、厳しいでしょうね。
でも「もうルノー出ていってくれ」って感じじゃないですか。本当に出ていっていいの?って感じがするんですけど。
日本にもそういう「修羅場を任せられるプロ経営者」がいればいいんですけどね。
日本には、あんまりいないですもんね。
だからあの時は、ゴーンさんに任せるしかなかったんですよ。
短期だったらよかったんですけどね。たとえ何十億払ったとしても。
そうですね。短期契約でピンポイントで。
ルノーに株を買ってもらうんじゃなくて、ゴーンさん個人に直接お金を渡して。
「ゴーンさん雇うから」って、株は売らずに銀行に融資してもらえばよかった。
それが理想ですよね。でも、銀行は貸してくれないでしょうけど。
だったらもう、社員に社債買えと。「日産が好きだったら買え」って言って、みんなでお金出し合うみたいな。
そこまで社員を巻き込めるリーダーがいたら、ゴーンさんを呼ぶ必要もなかったと思いますけどね。
確かに。「もう助けて」っていう感じだったんでしょうね。
どうなると思いますか?最後は。有罪になりますかね。
分からないですね。でも、あれだけ東京地検がやってるんだから、有罪になるんじゃないですか。ホリエモンの時と一緒。
なんとか有罪にもっていくっていう。ゴーンさんみたいなケースって、今後も出てきますかね?
どうなんですかね。ゴーンさんは、私にとって身近じゃないので。ちょっと想像ができないですね。
でも、同じ人間じゃないですか。50年ぐらいしか生きてないわけで。いくら頭が良いって言っても、知能指数1万とかあるわけじゃない。
あんまり友達になりたくないというか。一緒にお茶飲んでも楽しくなさそうな感じがします。
経営者として「ものすごく能力高い」っていうより、別のスペシャリストって感じがします。
「ヤバい会社を立て直す達人」みたいな感じですかね。でも「立て直したのに、なんでまだいるの」って思います。
それは「何のために植民地をつくるのか」みたいなもんで。
植民地?
だって「植民地の人が幸せになったから、もう手引く」みたいなのは有り得ないわけで。そこから搾取するために植民地を豊かにするわけですから。
それと同じだと?
構造は同じですよ。ゴーンさんやルノーにお金が入ってくるから、助けるわけじゃないですか。
そりゃそうですね。
そういう見方をするならば「そのために俺たち助けたんでしょ」って言われたら、返す言葉がない気がするんですけど。
だから、心情的には、ゴーンさん的には「自分にお金がいっぱい入ってくる」っていうのは、自分の中で正当化されてるんじゃないですか。
まったく悪いと思ってなさそうですもんね。
まったく。
それを正当化するのが、資本主義社会ですもんね。
そうですよ。
ゴーンさん1人だけ15億円ぐらい報酬取ってましたけど。
取ってましたね。
あれって社員の何人分くらいなんでしょう?
社員数百人分ですね。
正直、いくら仕事ができると言っても、数百人分は無理ですよ。あれは、能力収入じゃなくて権利収入。
その権利があったのかどうか。
合法かどうかはともかくとして、あったから取ってたんでしょうね。でも取り続けることはできなかった。
結局、あの方はコストカッターで、お金に対する感度がめちゃくちゃ高い。金勘定もできる。つまり、お金至上主義。
そういう人じゃないと、あんな仕事はできないですよね。
だって、バサバサ切っていきましたから。
自ら選んで、そういう人に来てもらったと。
そうですよ。お金至上主義のコストカッターを選んだ。
だから必然的にこういう結果になる?
その通り。
想定より長居しすぎたってことですね。
最後に退職金100億ぐらい、ポンと渡して辞めてもらえばよかったんです。
…次回へ続く…