泉一也の『日本人の取扱説明書』第43回「本の国」
著者:泉一也
日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。
本が売れなくなった。この20年間で出版業界の総売上は半減、書店数は6割減った。インターネットが普及したことでブログにSNSにYouTubeとメディアが激増し、スマホという超便利なデバイスまで登場した。電車の中では半分以上がスマホを見ている。新聞や本を読んでいる人はめっきり見なくなった。以前は外国人が日本に来ると、電車で本を読んでいる人の多さに驚いたようだ。「なんて知的な国か」と。
本とBookは違う。Bookingが予約であるように、Bookとは「書き残す」が語源である。一方、本は「本質、本物、本当」の本であり、そこに深い真実があるという意味だ。日本の出版業界は本を商売の道具にしたことで、景氣の波に飲まれてしまった。書店が仕入れ本を自由に選べず、売り上げの多い大手書店が優遇されてきたのがその証拠である。今の書店に並ぶビジネス本には、著者がマーケティングのため自らお金を出して出版した本が多数ある。書籍という体裁のパンフレットだ。読者が書店を離れていくのがわかる。
もし出版業界が本質、本物、本当を追求してきたなら、営業パンフ本をつくらずともよかったはず。こんなことが先日あった。拙書の某出版社が営業電話をかけてきた。「本を出しませんか」と。「すでに御社で出版させていただきましたよ、以前はお世話になりして・・」と話しかけると、バツの悪そうに何度もすいませんと言って電話をさっと切った。
怒りよりも不憫に感じた。
そんな出版業界の中でも本物の書店がある。東京江戸川区の「読書のすすめ」(ちなみにここの清水店長が某出版社を紹介してくれた)、大阪谷町の「隆祥館」。駅前で立ち寄りやすい大手書店よりも、立地は良くないのに濃いファンが大勢店に足運びをする。こういった書店は氣骨ある店主が奇跡的に生まれたのであり、本物の書店が育つ業界となってないのが現実である。