泉一也の『日本人の取扱説明書』第21回「無宗教の国」

泉一也の『日本人の取扱説明書』第21回「無宗教の国」
著者:泉一也

このコラムについて

日本でビジネスを行う。それは「日本人相手に物やサービスを売る」という事。日本人を知らずして、この国でのビジネスは成功しません。知ってそうで、みんな知らない、日本人のこと。歴史を読み解き、科学を駆使し、日本人とは何か?を私、泉一也が解き明かします。

なぜ徳川家康は鎖国政策に舵をきったのか。織田信長と豊臣秀吉は、国際交流に積極的であった。西洋諸国と交易を盛んにし、経済と軍事で豊かになり、世界に進出しようとした二人の天下人。家康は二人の統治を側で見ながら、日本にかつてなかった新興勢力が生まれつつあることを知っていた。それはキリスト教徒たちである。

家康から遡ること千年。仏教伝来時は、日本が進取の姿勢で中国・朝鮮から仏教を学んだ。主体的に仏教を学んだことと、中国・朝鮮は地理的に近く、過去から交流があったこともあり、仏教を日本の文化と政治にうまく調和させることができた。十七条の憲法第2条に「篤く三宝を敬え。三宝とは仏と法と僧となり」とある。

仏教に比べてキリスト教は西洋諸国の世界進出(侵略)と合いまって、世界中に宣教師が派遣され命がけの布教をし、急速に広められていた。歴史を見ると十字軍をはじめ、キリスト教は宗教戦争を各地で起こしている。その影響がもし日本に及ぶとしたら、戦国の混乱が再び起こり、下手をしたら植民地にされるかもしれない、と世界情勢に通じた家康は直観したはずである。現に歴史上最初の世界戦争は家康没の直後に起こったプロテスタントとカトリックの三十年戦争であった。家康はグローバルに先見の明があった人物といえるだろう。

では、本来宗教とは何なのか。宗教とは精神的な支えである。人間は心の支えが必要な種である。他の種と比べて心の病は人間にだけ多く見られる。そして、人間以外の動物は自然や神を崇拝しない。ネアンデルタール人が絶滅し我々ホモ・サピエンスが生き残ることができたのは、我々には宗教があったからという説がある。つまり、同じ心の支えを信じる者同士は、距離を超えて言葉を超えて仲間になれた。つまり、ネアンデルタール人は無宗教だったので、小さな範囲でしかチームワークを築けず、氷河期などの環境変化についていけなかった。一方、ホモ・サピエンスは広範囲でチームワークを築き氷河期を乗り切った。つまり宗教が交流と協力を生み出したのだ。多民族、多宗教の国民がいる米国では、国のトップである大統領が就任式で聖書に手を置いて宣誓をするが、まさに交流と協力の土台を表現している。この結束を家康は脅威に感じていたのだ。

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