変と不変の取説 第25回「下がるべくして下がった生産性」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第25回「下がるべくして下がった生産性」

前回第24回は「コントロールからサポートへ」

安田

労働法の改正が動き出しました。

ですね。もう待ったなしでしょう。

安田

ポイントは「残業させない」「有給休暇をきちんと取らせる」ってことですよね。

生産性を高める方向に「舵を切らせる」ということですね。

安田

労働時間を減らして、それで収益が上がらないんだったら「退場してくれていいよ」ってことですか。

そういうことですね。

安田

ある意味、企業の選別が始まってると。

はい。始まりました。

安田

労働人口が増えない以上、1人あたりの生産性を上げるしかないですもんね。

「労働時間を増やしてGDPも増やす」ということの限界が来たってことです。

安田

どんなに頑張っても、24時間以上は働けないですから。

そうです。生産性を上げる方向に舵を切るしかない。だから、そういう企業を増やしたい。

安田

で、そういう企業を増やすために「長時間働かす」ことを法律で禁止したと。

そういうことですね。まだ分かってない経営者が多いですけど。

安田

たとえば国が直接経営しちゃうってのは、どうなんですか?

どういうことですか?

安田

昔はやってたじゃないですか。国鉄とか。

国営企業をつくるってことですか?

安田

国営企業にしちゃったほうが、コントロールしやすくないですか?

いや、国営化は無理ですね。今までも散々失敗してきましたから。

安田

なぜ失敗したんですか?

国営企業っていうのは、効率化と真逆なんで。

安田

なるほど。ちなみに法改正っていうのは、何を指針にしてるんですか?

やっぱり民主主義なので、大多数の人たちの意見に左右されますね。

安田

そうなんですか?「一部の金持ちのための政治」とか言われてますけど。

いや、やっぱり政治の基本は大多数です。

安田

じゃあ、政治家は大多数を見て法律を作ってると?

大多数は「ブラック企業はダメ!」「働く人たちの権利を守れ!」って思ってますから。

安田

それは票のためってことですか。

もちろん。やっぱり政治家には票が必要ですから。

安田

まずは円安にして、輸出してる大企業が儲かれば、下請けも儲かる。っていう理論でしたよね。

そういう方針でしたね。

安田

でもイマイチうまくいってない。

もっと根本的な働き方改革が必要だってことに、気がついたんじゃないですか。

安田

ようやく気がつきましたか。

はい。

安田

でも票集めという意味ではどうなんですか。大企業がバックについてるイメージですけど。

「うちの会社は自民党寄りですから」とかいって、ある程度暗黙的な圧力で「投票せえよ」みたいな。

安田

組織的に票を入れさせてましたよね。

はい。企業献金もあるし、やっぱり経団連とか大企業が力を持ってました。

安田

今どうなんですか。「選挙、自民党に入れろよ」って言ったら、大企業の社員ってみんな自民党に投票するんですか?

それが業績に直結する場合は、そうなるでしょうね。

安田

業績に直結する場合?

たとえば建設・土木業界とかは、民主政権になると「コンクリートから人へ」で公共投資の予算ががんと減る。

安田

そういう業種は自民党に票が流れると。

はい。でも食品業界とかは、まったく関係ないので。

安田

そういう場合はどうなるんですか?

トップが言って、表面上は「わかりました」ってなりますけど、実際は自由にやってる。

安田

ということは、トップダウンでは「大企業の組織票」は動かないってことですか。

そうです。

安田

じゃあ、一般国民にウケる政治をしたほうが、票は集まるってことですね。

そうだと思います。

安田

今回の労働法改正ですけど。

はい。

安田

普通に考えたら、働く人は「休みが増えたほうがいい」と思うんですけど。

収入が減らないなら、絶対そうですよね。

安田

でも残業できなくなって、収入が減ってしまう。「改悪だ」って言う人も多いですけど。

だから一応、建前は副業推進とかになってるんですよ。

安田

なるほど。副業推進とセットだと。

はい。「残業やめましょう」と「企業は副業を認めましょう」はセット。

安田

それが出来ない会社は退場ですよと。

そうです。

安田

じゃあ、目先の残業代が減るのはしんどいけど、最終的には労働者にメリットがある?

全体の最適化として、ちょっと痛みはあるけど「その流れをつくっていこう」ってことですね。

安田

1人あたりの生産性を一定基準以上に高められない会社は、もうやっていけない。

やっていけなくなりますね、間違いなく。

安田

中小企業って、まだまだ経営者の意識がそこにいってない人が多いですけど。実際つぶれますか?

2〜3割はつぶれると思いますね。つぶれるというか、引き継ぎしないというか。

安田

潰すぐらいだったら、やる気のある若者に「安くM&A」してあげて欲しいですけど。

そういうケースは、もう出てきてますよ。

安田

そもそもの話なんですけど。

はい。

安田

なぜ日本だけ、こんなに生産性が落ちちゃったんですか?

気がついたら先進国最下位ですからね。

安田

もう途上国にも抜かれ始めてます。なぜ日本だけ、こんなに落ちてきたんですか?

やっぱり洗脳教育じゃないですか。子どもたちに「努力」とか「一生懸命」とか、習字書かすじゃないですか。

安田

「文句言わずに、効率が悪くても一生懸命やれ」っていう洗脳?

そう。「量をやれ」「時間かけてやりなさい」「継続は力なり」みたいな。

安田

楽しちゃいけないよと。

「もっと楽できるんちゃうんか」とか、発信すること自体がアウトなんですよ。

安田

先生が許してくれないってことですか?

仮に、先生に提案しても、まったくもって意見は通らないわけです。

安田

それはなぜ?

カリキュラムが決まってるからです。「先生はこの順番でやっていきます」って言うしかない。

安田

先生はどう思ってるんですか?教育委員会には言えない?

言えないですね、まったく。

安田

言っても受け入れられないんですか。

受け入れられないですね。完全にガチガチに決まっちゃってるので、すべてが。

安田

ということは、生産性は「下がるべくして下がってる」ってことじゃないですか。

はい。その通り。

安田

つまり国策として「失敗した」ってことですか。

そうです。

安田

「失敗した」っていう自覚はあるんですか?政府に。

いや、ないでしょうね。

安田

なぜ?

「責任の所在」みたいなものがないから。それがこの国の、いちばん大きな問題なんですよ。

…次回へ続く…


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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