第116回 「儲かれば正しい」という“必中正射”の罠

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第116回 「儲かれば正しい」という“必中正射”の罠

安田

藤原さんがメルマガに書かれていた言葉で詳しく聞いてみたいことがあるんですが、「正射必中」と「必中正射」は似て非なるものだと。「利益が出ないということは、正しい姿勢で撃っていないということだ」という内容でしたよね。


藤原

ああ、その話ですね。元々は弓道の言葉なんですが、「正射必中」、つまり正しい姿勢と邪心のない正しい精神で的を狙って撃てば矢は必ず的に中(あた)るよ、という教えです。

安田

正しいプロセスを踏めば、必ずよい結果が出るということですね。もし的に当たらない、つまり利益が出ていないのだとしたら、その考え方や姿勢、やり方のどこかが間違っているから、そこを変えなきゃいけないという。


藤原

そうです。それが本来のビジネスのあるべき姿だと思っています。ところが、昨今のビジネスの世界では、この考え方が逆転してしまっているケースがすごく多い。いうなれば「必中正射」の考え方です。

安田

とにかく的に当たりさえすれば、プロセスや姿勢はどうでもいいと。つまり、儲かりさえすればどんなやり方でも正しいことになってしまう。


藤原

その通りです。儲かっているという「結果」だけを根拠にして、自分は正しいことをしているんだ、正しいはずだと自己正当化していく。似ているようで全く非なるもので、この逆転した考え方に陥ると、やはり組織や人はよくない方向に向かってしまいます。

安田

なるほど。でも現実の経営者を見渡すと、この「必中正射」の考え方でやっている人の方が圧倒的に多くないですか? とにかく利益を出すことが至上命題になってしまっているというか。


藤原

そうかもしれません。私自身も過去に組織を崩壊させてしまったのは、この必中正射の考え方で経営をやっていたからじゃないかと。よほど金儲けのセンスがずば抜けている人なら、お金という意味では一生破綻せずに続けられるかもしれませんが。

安田

経済的には破綻しなくても、他の部分で無理が来るということですね。


藤原

ええ。結局それだと長続きしなかったり、人がどんどん離れていったりします。心から信頼できる人間関係や、心の深い部分での満足感といったものは確実に破綻していくと思うので、やはりビジネスは「正射必中」であるべきなんでしょうね。

安田

例えば会社の経営で考えると、作っている商品も売り方も、お客様に喜んでほしいという考え方も全く間違っていない。だけどまだ売れていない、利益が出ていないという時期ってよくあるじゃないですか。


藤原

立ち上げ期などには必ずそういう時期がありますよね。

安田

正しいプロセスを踏んでいれば必ずいい結果が出るというのは間違いないけれど、結果が出るまでにはどうしても時間がかかることが多い。一方で、姿勢も考え方も全く正しくないけど、とりあえず的に当てて利益を出している会社はすぐには潰れない。


藤原

確かに。短期的にはそういう会社の方が生き残りやすいという現実はありますね。

安田

正しい姿勢で90点まで来ているけどまだ100点には至らず利益が出ていない会社と、15点の姿勢だけど的に当てることだけを優先して利益を出している会社。姿勢を追求するあまり、利益が出る前に会社がなくなってしまうこともあるんじゃないかと思うんです。


藤原

それでいうと、姿勢が正しいのに利益が上がっていないとしたら、「その姿勢は本当に正しいのか?」という問いを自分に投げかけなきゃいけないサインだと思っているんです。自分の主観ではお客様のためになっていると思っていても、実は独りよがりだったりするかもしれないなと。

安田

ほう、なるほど。お客様とのやり取りの中で、その価値がちゃんと届いていないとか、ニーズとズレているということに気づかなければならないわけですね。それでいくと、今70点の状態を85点、90点にしていく努力はもちろん正しいことだと思うんです。


藤原

そこを磨いていくことは不可欠ですからね。

安田

でもその85点にする努力よりも、とりあえず15点でもいいからお客様からお金を取ってくる、つまり「的に当てる」努力を優先した方が、会社としては生き残りやすいですよね。そこはどうバランスを取るんでしょう。

藤原

そこは非常に悩ましい問題です。経営していれば、背に腹は代えられない状況というのは必ずありますからね。

安田

先日もある人から聞いたんですが、営業の社員が「このお客さんは取引しない方がいいんじゃないか」と上司に相談したら、「いや、黙って取ってこい。今はお金が必要なんだ」と言われたそうで。もちろん会社が潰れてしまっては元も子もないでしょうけど。

藤原

正直、私自身もそういう仕事を取ってきた経験はあります。長くお付き合いしたい相手ではないけれど、今私たちの金銭的な屋台骨を支えてもらうためには必要だと。ただ自分たちの絶対に譲れない一線だけは超えないという前提ではありましたが。

安田

多くの経営者が、今はとりあえず取らざるを得ないという苦渋の決断をしているんでしょうね。ただ、ある程度売上や利益が出るようになった時に、その分の売上を捨て切れないことも多い気がします。

藤原

よくわかります。一度その麻薬のような売上に依存してしまうと、なかなか抜け出せなくなるんですよね。

安田

多少のリスクを冒してでも、本当に付き合いたいお客さんだけを選別して、そうでないお客さんを切るという決断ができる経営者はものすごく少ない気がします。だから私は、最初から「正しい姿勢」だけで行くしかないんじゃないかと思うんです。

藤原

最初から一切の妥協をせずに、正射必中だけを貫くということですか。それはかなりハードルが高い道ですね。

安田

その時間を稼ぐためにこそ「資本金」というものがあるんじゃないかと思うんです。仕入れや設備投資のためではなく、正しいことを追求して会社が軌道に乗るまでの時間を買うためのお金。銀行の借り入れも本当はそういう理由で使うべきなんじゃないかと。

藤原

仰るとおりですね。でも悲しいかな、「正しい姿勢を貫きたいから時間をください」という理由では、銀行は絶対にお金を貸してくれない(笑)。

安田

だからこそ、今雇われていてやりたくない仕事をお金のために我慢してやっている人がいるとしたら、いきなり会社を辞めて起業するのではなく、自分が正しいと思うことをやって、収益が出るまでは二足のわらじでやっていく。そういうのも一つの手だと思います。

藤原

そうですね。「いつかはお金のために我慢してやる仕事をゼロにするんだ」という思いがあれば、必ず正しい姿勢に切り替えていけると思いますよ。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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