第99回 「ゼロサムゲーム」から「美意識」の経営へ

この対談について

人は何のために働くのか。仕事を通じてどんな満足を求めるのか。時代の流れとともに変化する働き方、そして経営手法。その中で「従業員満足度」に着目し様々な活動を続ける従業員満足度研究所株式会社 代表の藤原 清道(ふじわら・せいどう)さんに、従業員満足度を上げるためのノウハウをお聞きします。

第99回 「ゼロサムゲーム」から「美意識」の経営へ

安田

今回も藤原さんのメルマガからお話をお聞きしたいんですが、「ビジネスはゼロサムゲームではない」と書かれてましたよね。でも現実には「ゼロサムゲームだ」と、つまり「誰かが勝てば誰かが負けるものだ」と考える経営者も多いと思うんです。


藤原

多いでしょうね。特に競合他社を強く意識していると、いかにして競合に勝つか、ゼロサムゲームをどう制するか、という思考に陥りがちです。

安田

そうですよね。私自身はいま人を雇わずに一人でやっているから、そういう考えからは距離をおいていられるんですけど。でも社員を抱えていると、そうも言ってられないんじゃないかと。


藤原

まぁ社員がいれば固定費も発生しますから、一定の利益を確保しないといけませんからね。

安田

でしょう? でも藤原さんは、普通に社員さんがいる事業会社を経営されてますよね。その状況で、こういう感性を持ち続けられている。


藤原

そうですね。そういう意味では、ゼロサムから完全に抜けているわけではないんです。競業との勝負に巻き込まれることがないわけでもないですし。ただそこに偏り過ぎないよう、常に自分を俯瞰して見ている感じです。

安田

ああ、なるほど。現実的な数字はどうしたってつきまとうけど、そっちに全部偏ってしまってはいけないということですね。


藤原

そうそう。それにむしろ非数字的、非ゼロサム的な視点を持つことで、売上や利益や採用という現実的な部分にいい影響を与えることもあるんです。社員もお客様も、数字数字言っている会社より、「おもしろさ」や「美しさ」を追求する会社とつきあいたいじゃないですか。

安田

ああ、確かにそうですよね。でも、やっぱり藤原さんのように考えられる経営者は多くないと思うんですよ。その差はどこから出てくるんでしょうね?


藤原

う〜ん、お金を稼ぐことが「経営のすべて」だと捉えているか、それとも「一つの側面」に過ぎないと捉えているか、その違いじゃないでしょうか。

安田

ははぁ、なるほど。つまり藤原さんは「お金も一つの要素に過ぎない」と考えている。


藤原

ええ。もちろんお金は必要ですが、それ以前に、事業モデルを「自分のアート作品」のように考えているところがあります。

安田

ああ、すごくわかります。私もずっと、会社は「自分の芸術作品」だと思ってきましたから。「儲かるからこの事業をやる」という発想には、昔から全く興味が持てなくて。「世の中にまだないものを生み出したい」という欲求がまず先にあるんです。


藤原

うんうん、安田さんの原動力はそこにあるんでしょうね。自分独自の美意識や存在感が反映されていない事業を作っても意味はない。

安田

そうそう。だからこそ「A社がやっているあのビジネス、うまくいっているみたいだから自分たちもやろう」みたいな発想にならない。


藤原

そうなんですよね。世の中にはほぼ「模倣」としか言えないようなビジネスがよくありますもんね。法には触れていないから問題にはならないけれど、どうにも違和感を覚えますよ。

安田

わかります。例えば絵描きに関しても「どういう絵を描いたら売れるか」という発想から描き始めた人は、もはやアーティストではないと思うんですよ。


藤原

それは「職人」「商人」の分野ですよね。

安田

そうそう。それでね、そういう感覚で書かれた絵は、結局のところ多くの人には売れないと思うんです。順番が大事で、「どうしても表現したいもの」がある。それをアートとして表現した結果、初めて強く共感する人が現れて売れていく。

藤原

そう考えると会社経営も同じですよね。「どういうビジネスなら儲かるか」ではなく「どういうビジネスを自分はやりたいのか」が先。どうしても逆転しがちですけど。

安田

「お金になるかどうか」からスタートするケースが多すぎるんですよ。しかもそういう経営者の方が「まともだ」「能力が高い」と、多くの経済人から評価されている。でもその風潮も今後は変わっていく気がしますね。

藤原

同感です。もっとアート的な評価軸が当たり前になっていく気がしますね。AIなどのテクノロジーが発展すれば、「単にお金儲けをすること」自体の難易度は下がっていくでしょうし。

安田

ああ、確かに。そうやって「簡単に稼げる」会社がたくさん増えて、結局はそういうところから距離をおいた、美意識を追求する会社が一番儲かるようになる。そんな逆転現象が起きる気がします。

藤原

そうでしょうね。「儲かるかどうか」だけを考えている企業は、これからますます人の心を動かすものづくりは難しくなっていくでしょう。

 


対談している二人

藤原 清道(ふじわら せいどう)
従業員満足度研究所株式会社 代表

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1973年京都府生まれ。旅行会社、ベンチャー企業を経て24歳で起業。2007年、自社のクレド経営を個人版にアレンジした「マイクレド」を開発、講演活動などを開始。2013年、「従業員満足度研究所」設立。「従業員満足度実践塾」や会員制メールマガジン等のサービスを展開し、企業のES(従業員満足度)向上支援を行っている。

 


安田 佳生(やすだ よしお)
境目研究家

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1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。安田佳生事務所、株式会社ブランドファーマーズ・インク(BFI)代表。

 


 

 

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