その143 鼻毛さん

過去、といっても2、3年前までのことですが、わたくしは自分の無知によってあやまった認識をしていたことをひっそりとここで告白し、懺悔したいと思います。

それは、 鼻毛をナメていた ことです。

鼻毛が鼻腔から飛び出していて、それが他人の目に触れること、それは社会的な死であると、お恥ずかしいことにそう信じて疑っておりませんでした。異性などに相手にされていないという意味で、自分こそ社会的に死んでいる中年男であるにもかかわらず、です。

鼻毛、いやここでは鼻毛さんと呼ばせていただきます、鼻毛さんは、体において重要なフィルターの役割を常時果たしてらっしゃいます。おおげさでなく、外部の空気に含まれるさまざまな異物や病原菌が侵入してくるのを防ぎ、また乾燥から粘膜を守る役目も同時に受け持っているのだそうです。

そもそも、人間の呼吸は基本が鼻呼吸です。
鼻呼吸は呼吸ついでに熱を持ちやすい脳を内部から冷やすという機能まで兼ねているそうで、その鼻呼吸を支えるインフラとして、わたくしたちは文字通り、毎分毎時、鼻毛さんのお世話になっているのです。

しかし、それを理解したとて、鼻毛さんの太くて大雑把な生え方からして、実際にフィルターになっているのかには疑問が生じないでもありません。

これについては、とあるネットで有名な芸能人の若者が体験した例を目にすることがありました。
その若者は、鼻毛を根こそぎ抜いてみた結果、途端に風邪をひいて高熱を出したそうです。

こうしてみると、ほそぼそと人間の皮膚上に残っているほかの部位の毛たちと比較したとき、鼻毛さんのパフォーマンスは群を抜いているといわざるをえません。

スキンケア商品の説明では、どこの製品でも、鼻毛は機能的に必要、だけど入り口近くを短くすることは健康上問題ないよ、と謳っています。

今となれば、そのような、機能は享受したいけれど審美性も追求したい、という欲求は、個人的にはなんだかしゃらくさいように感じられてなりません。

鼻毛が出ていることを知りながら、何事もないように世間の荒波に漕ぎ出していく……
そんな人間こそが芯の通った「本物の男」ではないかと、ひそかな憧れを抱くのです。

そう、バカボンのパパのように……と思っていたら、実はあちらはヒゲなのだそうです。

 

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

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