先日、ボクシングのスター、井上尚弥がラスベガスでメインイベントを勤めた興行は、海外では「週末のボクシングを救った」といわれたりしたそうです。
どういうことかといいますと、その週の後半にはラスベガスのほか、ニューヨーク、サウジアラビアで世界的には井上と同じかそれ以上のビッグネームの試合が組まれ、いずれもが絶望的な凡戦となったからです。
それらの試合のダイジェスト動画のコメントは「見なかった奴が真の勝者」「対戦相手ではなく視聴者を眠らせた」などの声があふれる有様で、井上が激闘を見せなかったらどうなっていたことか、というのが「救った」といわれる所以でした。
しかし、凡戦を演じたビッグネームの選手も、手を抜いていたわけではありません。
その中の一人の試合は、パンチがほとんど出ないラウンドがあるような展開でしたが、そうなったのはひとえに、「徹底して合理的に戦った」からでした。
世界でいちばんの収入を得ているその選手は、4試合で推定4億ドルといわれる報酬契約を結んでの1回目が、その時の試合でした。しかも、本番といわれる試合がその次に控えていました。
結果、最優先は勝つことで、内容や評価は二の次となり、「どれだけリスクを下げて勝つか」という方向をつきつめることになりました。
一般論で、フリーランスや契約単位の世界というのは一回の仕事が勝負のようにいわれるものだと思います。
たとえすぐには影響しなくとも、落とした評価はあとで響いてくるものだと。
実際、凄まじいディフェンス能力を持っているにもかかわらずリスクを取らない試合を続けて、実力はたしかなのに試合が組まれなくなってしまった選手も過去にはいたようです。「興行からみて魅力的でない」と思われてしまったわけですね。
しかし、1試合の内容だけをみると、その干されてしまった選手と今回の報酬4億ドルの選手もほとんどやっていることは同じです。
違いがあるとしたら、それは評価の仕組みというものを理解していたか、だと思います。
スポーツ選手でなくともそうですが、世間の報酬は評価によって決まり、いくらにするかは実働前に合意されます。実際に働くときと、それでいくら得られるかが決まる間には、つねにねじれたタイムラグがあるのです。
高い評価をゲットしたあとの回収フェーズであれば、くそマジメに勝負する必要はなく、なんなら、「今回は評価の対象ではない」ということならば、堂々とつまらない勝ち方を目指すことが個人の最適行動だといえるのです。
そう、今回のカネロアルバレスのように……。