その34 いっぽん昔ばなし

少し古いスラングですが、「1本君」というのがありました。
1本だけ所有している高級ブランドの腕時計を
雨の日も風の日も毎日着け続けるさまを揶揄したものです。

腕時計はほかのアイテムと比べて
日々入れ替えていなければおかしいとか不潔に見えるものでもなく、
ましてやブランド品であれば価格が突出するものですから、
マジメに使えば10年20年手元にあるべきものです。

ただ、軍隊とか登山とかスポーツとか、
フィールドで何かすることを目的とした人でないかぎり、
実用品なのか装飾品なのかといえば後者ですので、
服装との調和やTPOをわきまえないとオシャレ用途からは脱落です。

逆にいえば、すべての場面でOKな万能の1本はない、ということでもあります。

その腕時計が10万でも100万でも1000万でも、
用途に合わなければ発揮できる価値が目減りしてしまいます。
仮にパテックだからといってどこでも大手を振れるわけではなく、
むしろ近所のスーパー、パチンコ屋、居酒屋で着用するのは
昭和の893か野球選手といわれて否定できないものがあります。

そもそもパテックを着けたとしたら、
スーツは量販店ものというわけにもいかなくなり、
スーツスタイルでスーツより重要な靴については
なおさら相応のものが求められます。
バランスしている前提のスーツにおいて一点豪華主義などという美学は成立せず、
ようするに全部にしっかりお金をかけなくてはならんのであります。

所有する時計の構成についても同様です。
スポーツ使用は機能オンリーで選べばよく、取り換えも不要ですが、
高級時計は革靴と同じくある程度ローテーションで使いまわすものです。
値段天井知らずの地獄のような世界から極力離れたところに身を置いたとしても、
手を出す以上はそれなりの総額にはなっているものです。

巨大なテレビを買えるかどうかではなく
巨大なテレビを違和感なく置ける部屋なのか、
ミニバンが欲しい車かどうかではなく
ミニバンがはみ出さず駐車できる家なのか、
という問いかけと同じことが、小さな腕時計の背後にも控えているのです。

……と、紙面も尽きたところですので、
わたくしがローレックスを1本だけ所有している理由についてのお話は
後日とさせていただきます。

 

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著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

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