その167 合理的 × 合理的

知人が勤務している、かなりの人数がいる事務所の小さな所属部署に、2ヶ月限定の若者の人員が来たそうです。

2ヶ月と決まっているのは、新しくやってきたその人がいわゆるキャリアコースであり、経験を積む目的で配属されたからです。
いわば、その人は「お客さん」です。
部署のリーダーは、その間、周囲のスタッフに「なんでもひと通り教えこむように」と指示したそうです。

大型の事務所がすべてそういうものかはわかりませんが、その事務所はより大きな仕組みを支える手続きを処理するための「現場」であり、実務は雑多な繰り返し性の高い作業の連続だといいます。

そんな中、たとえば、ある承認をもらいに上長に申請する、その作業についてもリーダーが「こういうことも教えといて」とあとで指摘するようなことがあるのだそうです。

これらのひとつひとつはきわめて合理的です。

最終的な目標は、何年かのちにキャリア人材が組織の制度構築や改善を生んでいくことでしょう。
実際、年単位ではその事務所にもさまざまなアップデートが持ちこまれてきたといいます。
全体のルールを作る人が、現場で行われている申請のルールを個別に覚えておく必要はなく、むしろ非効率なものに違和感を覚えていれば、それが目的といえます。

そのためには些細な日常業務を手で行い、業務のリアルを目の当たりにすることに意義があり、重要度の差をつけずになんでも体験することにも一理あるでしょう。

ただし、現場の人は、2ヶ月の人員にたくさんのことを教えてもメリットがありません。教育にリソースを割くのは、作業量をふやすための仕込みであり、仕事として返ってこなければ現場としては「損」です。

組織全体でみたときのメリットと現場レベルのデメリット、両者を比較して前者をとる(というか比べるべくもない)という判断、これもまた当然に合理的です。

しかし、これらの仕組みは最終的な「最善」なのでしょうか。

資質の高いキャリア人材に投資を集中することは理にかなった思考ですが、途中で離脱していく人もいて、その数を予測や制御することはできません。ただし母集団の大きさがあれば一定の数量は確保できると予想でき、それによって元がとれるという判断。
あるいは、投資として「現場に投入して経験を得る」という手段の選択。

いくつもの合理性が、たとえば8割のプラス面と2割のマイナス面でできているとして、そんな個別の合理性を組み合わせの果てに残るのは、8割かける8割を何回もかけあわせるようなもので、しまいには5割も切っちゃってるんじゃないの……などと個人的に邪推してみるのでした。

 

 

この著者の他の記事を読む

著者自己紹介

「ぐぐっても名前が出てこない人」、略してGGです。フツーのサラリーマン。キャリアもフツー。

リーマン20年のキャリアを3ヶ月分に集約し、フツーだけど濃度はまあまあすごいエッセンスをご提供するカリキュラム、「グッドゴーイング」を制作中です。

感想・著者への質問はこちらから