今週は!
私は、新潟と長野との県境に位置する小さな温泉町の出身なのですが、小学校時代の仲間たちと地元で飲む際に、必ずと言っていいほどする話題があります。「あぁ、〆に千浦屋のそばが食いたいなぁ」「お前も?俺もいま同じこと思ってた」「まったくさ、なんでシンゴ君は跡を継がずに温泉バスの運転手になんかなっちゃったんだろうね」と、まぁ、こんな話。『千浦屋(ちうらや)』というのは、温泉街にあったいまはなき中華そば店で、店主のおばちゃん(シンゴ君のお母さん)がつくる中華そばがとにかく旨かったのです。もちろん子どもの時分の記憶などというものは当てにならないものでありますから、その中華そばが“本当に”美味しかったかどうかはわかりません。でも私たちのなかでは、何十年という時が経っても、とにかく千浦屋の中華そばが世界で一番なのです。私なども、あれからどれほど中華そばを食したかわかりませんが、いまだあの中華そばを超える味に出会えておりません。
味のつづきをもうひとつ。個性的なお店が並ぶ新橋・烏森神社の脇を入った路地に、『びん』という鳥料理の店があります。店主の長谷川敏さんが拵える料理の数々はいずれも旨いものですが、なかでも茶碗蒸しは格別。これまでに幾人もの知人・友人・仕事関係者を連れてまいりましたが、ほぼ全員が驚嘆、多くを再訪せしめてしまうほどの味なのです。私もこの茶椀蒸しの虜になってしまった一人で、かれこれもう15年ほど通っておりますが、数年前、ずっと一緒にお店を切り盛りしていた奥さまが急逝。いまは敏さんがお一人でお店を守っておられます。ただ敏さんもかなりのご高齢であり、お子様もいらっしゃらないので何かあったらお店を畳むとのこと。その日がまだまだ遠い先であることを願っていますが、いずれあの茶碗蒸しを口にできない日がくることを想像すると、なんとも言えない喪失感を覚えてしまうのです。
そのお店、その人とともに消え去ってしまう味。そんな味を継承できるネット上の仕組みがあればいいのにとしばらく前から考えております。お店を畳む際に、その店の味(全部でも一品でも良いと思います)を次代へと譲り渡していく。このようなサービスがあれば、長年愛された貴重な味を残すことができ、譲る方にはその後の生活の足しになるお金が残ります。受け継いでくれる人が遠く離れた町であっても構わないと思います。もしいま千浦屋の中華そばを食べられるお店があるとわかったら、私は全国どこへでも飛んでいくだろうなと思うからです。
今回のブログのタイトルは、こんなサービスにふさわしいネーミングはなんだろうと考案してみたものです。「受け継ぐ味」という意味を込めて、TSUGUMI(つぐみ)。よしもとばななさんのデビュー作と一緒ですね。