今週は!
毎度毎度の私事ではありますが、15年程前より俳句を嗜んでおります。俳号は、雷太。私の職業であるコピーライターをもじって、師である高木幽苑氏が名付けてくれたものです。ちなみに幽苑氏は、近代俳句の礎を築いたといわれる高浜虚子の孫なのですが、元石油会社役員の句友に“燈邑(とうゆう=灯油)”、醤油会社勤務の句友には“もろみ”と名付けるなど、なかなかのネーミングセンスの持ち主です。
さて俳句を学ぶにあたって、まず手元に用意しなければならないのは『歳時記』ということになります。歳時記は1月から12月まで月ごとの季題と例句が掲載されている、いわば俳人にとってのバイブルというべきもの。先生などは「歳時記の頁を最初から最後まで10度捲って(つまり10年かけて)ようやく一人前」と仰られますが、私にとっての歳時記はネーミングを考える際のヒントが満載されているネタ本でもあります。とくに和に関する案件―和菓子や日本酒、工芸品、和食系のお店など―を開発する際には大変参考になり、事実これらのネーミングにはたくさんの季題が使われています。
たとえば、
晴天にちらつく雪をあらわす「風花(かざはな)」は1月の季題ですが、東京・汐留にあるコンラッド東京28階の日本料理店の名称に。同じく1月の「春隣(はるとなり)」は、春がすぐそこに近づいていることを表す季題ですが、こちらは『虎屋』さんの和菓子の名に。もうひとつ私が好きな1月の季題である「薄氷(うすらい)」は、富山県にある老舗の和菓子屋『五郎丸屋』さんの名物干菓子に使用されています。
ほかにも調べればぞろぞろ出てくると思いますが、季題がもつ情緒がいかに日本人の感情にフィットしているかがわかります。面白いのは季題には副季題というものがあって、言ってみれば季題のバリエーションというようなものなのですが、これがまた日本語がもつ豊かさと広がりを感じさせてくれます。俳人のなかには季題ではなく、あえて副季題を使うことでありきたりな句を避けようとする方もおられます。
たとえば、11月の季題である「時雨(しぐれ)」の副季題には、次のようなものがあります。
朝時雨
夕時雨
小夜時雨
村時雨
片時雨
いや、なんとも風情がありますよね。ネーミングにちょいと捻りをきかせたい場合などは、副季題を使ってみるのも手かもしれません。『小夜時雨』などと暖簾に染めた料理店なぞがあったら、私、間違いなくくぐってしまうと思います。