日曜日には、ネーミングを掘る ♯99 樂茶碗

今週は!

先日、出張で久しぶりに京都に行ってきました。仕掛中の仕事やクライアントとの打ち合わせがあったため、滞在中自由な時間はあまりなかったのですが、合間が2時間ほどあったので散歩をかねてホテルの近くにある樂美術館を尋ねました。

茶道を嗜んでいる方には釈迦に説法かと思いますが、樂焼の家元で知られる樂家のはじまりは桃山時代(16世紀)。千利休と親交のあった初代長次郎より十六代、およそ450年の長きに渡って変わることなく樂焼の伝統と技術を現代に伝えている家です。

ちなみに樂家は、三代目以降、当代が吉左衛門を名乗り、隠居をすると「入」の字を含む入道号が贈られる習わしとなっています。「道入」「一入」「宗入」「左入」「長入」「得入」「了入」「旦入」「慶入」「弘入」「惺入」「覚入」「直入」と続きます。ネーミングによるブランディングですね。

さて、当日の美術館。『ことのはの宴』という企画展が催されていました。ことのは(言の葉)、すなわち茶道具に欠かせない「銘」にちなんだ展示会です。銘とは、いってみれば茶道具に付けられたネーミングなのですが、そのほとんどは和歌や俳句から引用されています。

たとえば、今回展示されていた二代目常慶作の黒樂茶碗「黒木」は、万葉集にある聖武天皇の御歌「あおによし 奈良の山なす 黒木もち 造れる室は 座せど飽かぬかも」から名付けられています。※黒木とは、木の皮を剥がさない状態の材木のこと。

歴代の作品と銘の解説文が並ぶ展示室の一角に、昨年、樂家を継いだばかりの若き当主、十六代吉左衛門の赤樂茶碗が展示されていました。見るからに瑞々しい茶碗です。解説文には、こう書かれていました。

「この茶碗は、襲名前の作品で、銘もまだありません。銘によって、茶碗に新たな景色が広がりますが、銘によってその広がりを限定してしまうこともあります。この茶碗には、どのような銘が合うでしょうか。」

商品やサービスあるいは企業の景(けい)が、1つのネーミングによって広がることもあれば、限定されてしまうこともある。

比ぶるのは不遜と思いながら、樂茶碗と自分の仕事を重ねた京でのひと時でした。

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