日曜日には、ネーミングを掘る ♯108 「鈴豆腐」

今週は。

2018年10月15日、
フランスで発行されている日仏新聞に
一人の日本人の訃報を伝える
小さな囲み記事が掲載された。

去る9月18日、鈴木昭は
終の棲家である奈良の地で永眠しました。
フランス在住中は、
『鈴豆腐』と共にご愛顧頂きました。
ここに生前お世話になった皆様に
感謝と共にお知らせ致します。

喪主である奥さまからの
お礼の言葉であった。

『鈴豆腐』というのは、
亡くなられた鈴木さんが
パリで始めたお豆腐屋の屋号、
そして商品のブランド名でもある。

いまから10年程前、
食べもの関係の仕事で訪れた彼の地で、
ご本人にお話を伺う機会があった。

生い立ちやフランスとの関わり、
豆腐づくりを始めたきっかけなど
一通り伺ったあとで、
鈴木さんがフランス人と日本人の
自然観の違いについて語ってくれた。

「パリにはたくさんの公園があって、
いつも美しい花々が咲いている。
けれども我々日本人からしてみたら
あれは自然じゃないんですよ。
彼らは季節が変わるごとに、
それまで生えていたのを
全部引っこ抜いて、
新しいのと入れ替えちゃうんだから」

自然を支配しようとする西欧。
自然と共生してきたアジア。

その違いを、遠く異国の地で
お豆腐をつくる人から聞いて感じた。

いまだ猛威を振るう
新型コロナウイルスであるが、
アジアにおける死者の数が、
西欧と比較して極端に少なく
推移していることが
専門家の間で研究されているという。

なにか理由があるに違いないと
自分なりに考えてみたとき、
鈴木さんが仰っていたことを思い出した。

ウイルスも、また等しく自然なのだ。

菜の花や月は東に日は西に  与謝蕪村

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