日曜日には、ネーミングを掘る ♯148「黙食」

今週は!

近所に新しいイタリアンの店ができ、家内と二人で食事に出かけた。変わらずのコロナ禍ではあるが、店内はほぼ満席である。

テーブルの1つに、平均年齢70歳以上と思われる四人連れ。家族だろうか。会話は弾んでおり、テーブルはときどきどっと笑いに包まれる。

最初は好ましく思っていたが、お酒が入ったせいもあるのか、次第に会話のボリュームが増してくる。しばらくするとコロナ禍でなくとも気になるレベルになった。店内に、飛沫と暗雲が漂う。が、当の家族(あまりの大声で、某私大の名誉教授一家と教授の姉だということももはや筒抜けだ)は、周りから冷たい視線もお構いなし。困り顔の店主も、相手が常連客らしく何も言えない。

やれやれ。あんなふうにならないようにしないとね。と、より一層声を潜めた家内と私であった。全国の飲食店主のご苦労、想像するに余りある。

そんな出来事もあったなか、今回のブログでは、ネットでも大きな反響を呼んだポスターを紹介したい。

制作したのは、福岡市内にあるカレー店『マサラキッチン』の店長、三辻忍さんである。お店のブログには、三辻さん自身によるこのポスターを掲げるに至った経緯などが丁寧に書かれている。

三辻さんも、最初はふつうに「ノーマスクでの会話はご遠慮ください。感染対策にご協力を!」と紙に書いて、店内に貼り出していたのだという。しかし、冒頭の家族のように守れないお客はどうしても一定数いる。このようなお客に対しては、口頭で注意をするしかないのであるが、店内の雰囲気に水を差すことにもなるし、できればそこまではやりたくない。「黙って食べましょう」を、もっと効果的に伝えることはできないか。と、考え至ったのが「黙食」であったという。

三辻さんが辿ったプロセスは、ネーミングを考えるプロセスととても良く似ている。「ノーマスクでの会話はご遠慮ください。感染対策にご協力を!」は、あくまで素材(コンセプト)であって、そのままでは生煮えの状態。私の仕事的にいえば、商品(ネーミング)になっていない。しかし現実は、飲食店に限らず、生煮え状態で出してしまう人が圧倒的に多いのではないだろうか。そこを煮詰めて、絞り出した一滴が「黙食」なのだと思う。

いいネーミングである。しかも、そのままキャッチフレーズとしても使える優れもの。いまや学校で使われたり、さまざまなバリエーションが生まれているのも頷ける。

Good job!三辻さん。

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