原因はいつも後付け 第70回「負ける投資」

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第70回》負ける投資

私は今でも、初めて1号店の広告を出した時のことをよく覚えています。

地域限定の紙媒体情報誌で、掲載費は一番安い5万円のプラン。
一番小さな掲載スペースに表示することのできる文字数はごくわずか。

「この限られた文字数でいかにお店の魅力を伝えるか」

全く集客できていなかった当時の私にとって、初めて出す広告で5万円と言うのはとても大きな投資。そのため、広告の掲載文章を考えるのに1週間くらい時間をかけた記憶があります。

結果、5万円の広告費に対して、お店に来てくれたお客さんは1組2名さま。
初めての広告掲載は失敗に終わりました。

一生懸命、掲載文を考えたにも関わらず、私の投資が失敗した原因は何だったのか?

その答えは、今ならよく分かります。
それは、大手と同じところにお金を使っていたから。

広告媒体はより多くのお金を払ったお店や企業が有利になるように出来ています。
当然、私が掲載した情報誌も多くのお金を払った大手チェーンが一番目立つスペースに大きな枠を取り、さらに大幅な値引きクーポンまで付いていました。

それに対し、私のお店は全く目立たないスペースに小さく掲載されているだけ。実際に掲載されている広告を見比べれば、私のお店にお客さんが来ない理由も納得だったのです。

じゃあ当時の私は何にお金を使うべきだったのか?
広告費の失敗から私なりに考えて行き着いた答え。

それが、店内の「遊び」にお金を使うということ。

大手と同じところに、大手より少ない投資をする。
これでは負けることが確実な競争に、自ら飛び込んでいるに他なりません。

だから広告費にお金を使うことを止め、そのお金をお客さんが店内で過ごす時間の価値が高くなる為の遊びに投資をすることにしたのです。

商売が上手くいく理由は複数の要素が絡んでいるために、私が店内の遊びに投資をしたことがどれだけお店の売上に貢献したのかを把握することはできません。

ただ、私が現在まで商売を続けてくることができた要因の1つは間違いなく、この「大手と違うところに投資をする」という考え方にあると思います。

「もっとお金を出せば、掲載順位を上げられる。」
「もっとお金をだせば、写真をたくさん掲載できる。」

こういった考え方こそが自ら競争を招いているのであり、小規模経営においてはこの競争は、ほぼ負けが確定している戦いであるということ。だから私たち店舗オーナーは競争から離れるために、大手とは違う投資をする必要があるのです。

大手と同じところにお金を使えば上手くいくのではなく、大手と違うところにお金を使うから上手くいく。

これが今の私の考えであり、私の広告費への失敗がこれを読んでいただいている店舗オーナーさんの役に立てば、とても嬉しいです。

 

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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