原因はいつも後付け 第56回 「飽きられる不安」

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

《第56回》飽きられる不安

新しく自分で商売を始める時、オーナーの多くは商売を長く継続させる前提で計画を考えるのではないでしょうか?これは創業した頃の私も同じです。

「商売を始めるなら、地域に長く支持されるお店を作りたい。」
「長く継続すれば、それだけ喜んでくれる顧客の数も増える。」

こんな事を考えながら商売を始めたことを今でも良く覚えています。

ただ、実際に商売を始めてからしばらく経ってみると、商売を始める前には考えてもいなかった「ある不安」が頭をよぎるようになってきたのです。


《しつこく続けて失うもの》

商売を始めてしばらく経ってから気づいた「不安」。
それが、自分の商売がお客さんに「飽きられる」ことへの不安です。

「お店の変わらない強みをしつこく言い続けていたら、飽きられてお客さんを失ってしまうんじゃないか」
「飽きられないためには、何か新しい強みを作らなければいけないのではないか」

こう言った不安を感じてしまうのは、何も当時の私だけではないと思います。
だからこそ、多くのお店がお客さんに飽きられることを恐れて、新しいお店の強みを作り出そうと試行錯誤するのだと思います。

同じことをしつこく続けても飽きられるから、飽きられないように新しい強みを作る。
これは一見、正しい取り組みのように思えるかも知れません。

でも、本当にそうなのでしょうか?
繁盛しているお店を見ていると、どうもそんなに新しいことをやっているようには見えないのです。

《しつこく続けて得られるもの》

繁盛しているお店は、そんなに新しいことをやっていないという事実。

じゃあ、彼らは何をやっているのか?
それが「お店の強みを掘り続ける」という行為。

彼らは創業した頃の私のように「同じことをしつこく続けていたら飽きられる」という不安から新しい強みを増やそうとするのではなく、自分のお店がいま持っている強みから目移りすることなく、自分の強みを掘り続けているのです。

ではなぜ、彼らはしつこく同じことを続けているにも関わらず、飽きられないのか?
この疑問に対する答えは、自分がお客さんの立場になってみれば分かります。

その答えは、しつこく自分のお店の強みを掘り続けるという姿勢は、お客さんの視点から見れば飽きるどころか、逆に1つの強みに集中している姿勢は「信頼できる」ということ。

お客さんに飽きられるという不安。

この感情を抱いてしまう原因は、自分のお店の強みを信じることができないからであり、自分が信じることのできない強みをお客さんが信頼してくれるはずもありません。

そう考えるのであれば、そもそも「お客さんに飽きられる」と自分が不安に感じてしまう程度の強みは、実は本当の強みなどではなく、周囲の目を気にすることなく掘り続けられるものこそが本当の強みであるということ。

つまり、「お店の強みが飽きられる」という不安に駆られていた当時の私は、飽きられるどころか実は何の強みもないお店だっただけであり、何の強みもないお店こそ飽きられるのは当たり前だと、繁盛店を見ていて感じるのです。


オープン以来、全く変えずにこだわりの商品を提供し続ける、私のお客さんのお店。
同じ強みをしつこく掘り続けるからこそ、お客さんから信頼されると思うのです。

 

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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