第84回 感謝されない安売り

 // 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 //
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

私はこのコラムで、何度か自身の安売りにおける失敗について書いてきました。
安売りをした理由は、当然その方が集客で苦労しなくて済むと思ったからです。

ただ同時に、こう思っていたのも事実なのです。
「価格は安いほうが、お客さんだって喜んでくれるはずだ」と。

つまり安売りとは、自分とお客さんにとってwin-winであると信じていたのです。


「価格は安いほどお客さんから感謝されるはず。」
当時の私は、この考え方に全く疑いを持っていませんでした。

では、実際はどうだったのか?
結果を見てみると、実際は真逆でした。

感謝されるどころかお店は雑に扱われ、お酒を扱うということもありグラスは頻繁に割られ、メニュー表はオープンから1週間もするとボロボロになってしまいました。

意図的ではないと思いますが、こだわって作った手作りのメニュー表に靴の踏み跡があるのを目にした時は、とても悲しい気持ちになったのを今でもよく覚えています。

そこには、お客さんから感謝されているという実感は全くありませんでした。

その後、私は安売りの経営が立ち行かなくなり、値上げをせざるを得ない状況に追い込まれる訳ですが、値上げをしてみると不思議なことが起きました。

それが「値上げをするほどお客さんがお店を丁寧に扱ってくれるようになった」ということです。

安くするほど雑に扱われ、高くするほど丁寧に扱われるという事実。
当時の私は、なぜこんな事が起きるのか理解が出来ませんでした。

でも今から振り返って考えてみれば、その理由はよく分かります。
その理由とは、「商品の価格とは自分自身の価値を決める行為だった」ということ。

つまり私は安売りをすることで、自ら「自分のお店はお客さんにとって価値の低いお店です」と言ってるようなものだったということです。

自らの価値を高める努力をし、その価値を価格に反映するからこそお店は丁寧な扱いをされるのであり、自らの価値を高める努力をせず、その価値を安売りするお店は安い扱いしか受けられないのだと、その時学んだのです。

 

 著者の他の記事を見る

著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

感想・著者への質問はこちらから