第183回 誰も得しない集客

 本コラム「原因はいつも後付け」の紹介 
原因と結果の法則などと言いますが、先に原因が分かれば誰も苦労はしません。人生も商売もまずやってみて、結果が出たら振り返って、原因を分析しながら一歩ずつ前進する。それ以外に方法はないのです。28店舗の外食店経営の中で、私自身がどのように過去を分析して現在に至っているのか。過去のエピソードを交えながらお話ししたいと思います。

「お店の看板にどんな情報を出すのか?」
店舗商売をしているオーナーであれば、誰もがこの課題について頭を悩ませた経験があるのではないでしょうか?

私自身もこの課題について開業時から考え続けてきた訳ですが、そんな経験の中でも今から振り返って「これは失敗だったな」という看板について、今回は書いてみようと思います。


開業してから長い間、私が看板に出していたもの。
それが「お店の中で価格の安い商品の羅列」です。

「安めの商品を書いておいた方が、お店に入ってきてくれるはず」
「知名度がなくても、安ければ他店より選ばれやすくなるだろう」

これが当時の私が期待していたことであり、今でも目にするこうした安い商品を並べた看板のお店は、少なからず私と同じような集客を期待しているのでしょう。

でも、今の私にとっては、こうした集客のやり方こそが失敗だったと思うのです。

安い商品を羅列して集客しようとすることの問題点。

それは、安い商品ばかりを見せて集客できたとしても、その他の商品価格が期待どおりでなければ、お客さんを落胆させてしまうということ。そして、安い商品を羅列した看板では、お店でどんな時間が過ごせるのかといった、体験価値は伝えられないということ。

つまり、安い商品を羅列した看板を作ってしまっていた私は、低価格を期待して来店されたお客さんを落胆させてしまう可能性があった一方で、本来お店に来て欲しかったお客さんの層にはお店の魅力を伝えていなかったといえる訳であり、お客さんにとってもお店にとってもメリットのない、誰も得をしない集客をやってしまっていたということです。

「お店の看板にどんな情報を出すのか?」

今の私が考えるこの答えは、たとえ一部の層に価格が高いと思われたとしてもお店が体験して欲しい商品を書き出すこと。漠然と多くのお客さん層に受け入れてもらおうとせず、明確なお客さん層を想定して提供したい価値を書き出すこと。

全てのお客さんが満足するお店はない以上、私たちがやるべきなのは、より多くのお客さんに受けることを期待して安い商品を羅列することではなく、お店が伝えたい価値に共感してくれるお客さんの層にしっかり届く看板を作ることなのだと今は思うのです。

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著者/辻本 誠(つじもと まこと)

<経歴>
1975年生まれ、東京在住。2002年、26歳で営業マンを辞め、飲食未経験ながらバーを開業。以来、現在に至るまで合計29店舗の出店、経営を行う。現在は、これまで自身が経営してきた経験をもとに、これから飲食店を開業したい方へ向けた開業支援、開業後の集客支援を行っている。自身が経験してきた数多くの失敗についての原因と結果を振り返り、その経験と思考を使って店舗の集客方法を考えることが得意。
https://tsujimotomakoto.com/

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