♯162「西周」

今週は!

先日、とある案件の打ち合わせをしているときのことである。メンバーとして参加しているマーケティングコンサルタントがこんな悩みを打ち明けた。

-optimization(オプティマイゼーション)をうまく説明できる日本語ってなんかないですかね。そのまんま訳すと「最適化」なんですけど、お客さんにはピンとこないし、肝心なことが伝わっていない気がするんですよね。

あなたの肩書も伝わっていないんじゃないの、と言いそうになったが、たしかに外国語をうまく日本語に変換できなくて、そのまま使用しているケースは多い。

「コンプライアンス」「アグリ―」「アライアンス」「モチベーション」「レジリエンス」「アンガーマネジメント」「イシュー」…。あげたら切りがない。

そういえばアグリーとかイシューとか言ってる人って大体が仕事できないよなぁ、なーんてことを考えていたら、一人の人物のことを思い出した。といっても、その名前を知っている人はごくわずかであろう。ボクも、獨協大学の仕事をしていなかったら知ることはなかったと思う。

西周(にし・あまね)。島根県津和野出身。幕末から明治にかけての啓蒙思想家。留学経験もあり、福沢諭吉と並ぶ近代日本を代表する知識人。独逸学協会学校(現:独協学園)の初代校長を務めた。

西が生み出した造語は、明治の知識人のなかでも抜きん出ており、とくに哲学・技術系に重要なものが多い。

「哲学」「芸術」「理性」「技術」「心理学」「意識」「知識」「概念」「定義」「絶対」「自由」「世界観」「人生観」「人格」…。

ボクらは、これらの言葉をあたりまえのように使っているが、いざ生み出すとなると容易なことではないと想像できる。辞書のない時代である。おそらく原語の意味を1つ1つ掘り下げ、それにふさわしい漢字をあてはめていったのだろう。

ちなみに代表作である「哲学」の元になったphilosophyは、ギリシャ語のPhilos(愛)とsophia(知識)に由来するが、西はそこに「道理を明らかにする」を意味する「哲」を当てはめている。絶妙の選択である。もしこれが「考学」「頭学」「悩学」だったりしたら、この国のphilosophyは学問としてずいぶん軽いものになっていたはずだ。

西周は、まさにその後の日本に多大な影響を与えたネーミングライターだったわけである。

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