「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。
第98回「昭和という幻影」
前回、第97回は「真実はどこにある?」
「日本史の中でどの時代に憧れますか?どの時代に戻ってみたいですか?」というアンケートがありまして。
昔からありますよ。
その結果が大きく変化してるらしいです。
へえ。そうなんですか。
男だったら戦国時代というイメージじゃないですか?
そうですね。あとは幕末とか。
女性だったらどうですか?
平安時代じゃないですか。
そうなんです。これまでのアンケートでは平安時代とか、大正ロマンに憧れる女性が多かった。
今回はどういう結果なんですか?
今いちばん人気があるのが昭和らしくて。
昭和ですか!
昭和って「戦争で大変だった」というイメージですけど。バブルのイメージが強いんですかね。「昭和を体験したい」「昭和に戻りたい」って人が増えてるらしくて。
私は個人的には、まったく昭和には憧れないですけど。
それは泉さんが昭和を体験してるからじゃないですか。
体験してない世代のアンケートなんですか?
いや違いますね。知ってる人たちも「あの頃はよかった」「あの頃に戻りたい」って。社会全体がエネルギッシュだったからでしょうか。
多様化してないからですよ。
どういう意味ですか?
日本人ってみんな横並びが好きなので。みんなでワーッとやってる感じがいいんでしょうね。昭和には多様化がなかったから。
なるほど。多様化する前の日本が昭和ってことですか。
そうです。超わかりやすいですよね。
1億総中流で。
そう。1億総中流で、みんなで同じ歌を歌ってた。「北酒場をみんなで歌います」みたいな。
みんな同じアイドルの写真を持って、みんなで一戸建てを買って、みんなで受験勉強して。
そうそう。みんなで暴走族やって(笑)
たしかにそうですね。「みんな」の時代でした。
はい。みんなで同じテレビ番組を見て、翌日はそのテレビの話で盛り上がる。
そういうのに憧れるんですかね?いまの若い子は。
YouTubeで昔のアイドルの動画を見たりしますよね。
確かに。演歌とか昭和の歌をやたら聴いてる若者もいます。
『今日から俺は!!』も、あれ、昭和の物語ですからね。
そうですね、たしかに。
めちゃくちゃ人気ありますよ。映画見にいきましたけど、おもしろかったです。
昭和の不良物語ですよね。
そうそう。
いまどき、なかなかいませんよね。あんな人たち(笑)
ツッパリはいないです(笑)
昭和は経済が右肩上がりで、毎年のように初任給が増えていって。「あの頃は本当に人生が輝いてた」という年配者は多いですよ。
自分自身が若かったというのもあるでしょうね。
今の若い子が憧れるのはどうしてでしょう。もしかして日本人全体が老齢化してるから。
そうかもしれませんね。
国家として高齢者になってきてると。
国全体に「あぁ、昔はよかったあ」という空気が蔓延してますね。
明治・大正ってまだまだ中高生みたいな時代で。昭和あたりがいちばん輝いてた、人間でいえば20代みたいなイメージですかね。
東京オリンピックもありましたし。あと、『サザエさん』とか『ちびまる子ちゃん』とか『ドラえもん』とかも、ぜんぶ昭和じゃないですか。
確かに。
いまだに視聴率がそこそこあるわけで。やっぱり、ああいう世界観が好きなんですよ。
日曜日の夕方になると、家族みんなでサザエさんを見てましたよね。
あの世界観でまだ続いてるってのがすごいですよ。酒屋のサブちゃんがやってきて。
たしかに。もう、あんな家ありませんもんね。
ないですよ。勝手口に酒屋さんが来て「どうも~」みたいな。
そもそもあんなでかい家に住めません(笑)
都内では無理ですね。
現代の閉塞感がつくりだした幻影みたいなものでしょうか。
昭和は楽なんですよ。自分の頭で考えなくても勝手に流れてるので。プールでグルグル回ってる感じ。楽しいじゃないですか、あれ。
楽しいですか?
全員で回ったら流れができるので。それに乗ってるだけで進んで行くんですよ。
中国のプールが今まさにそんな感じですよね。
みんな、ああいうのが好きなんです。私は逆に回るほうが好きでしたけど(笑)
流れに逆行するタイプですね。
あえて逆行するっていう。
僕とか泉さんはそういうタイプですよ。昭和がすごく気持ち悪く感じるタイプ。
はい。気持ち悪いですね。
みんなが同じ番組を見て、みんなが同じ行動をするっていう。
嫌ですね。みんなで同じブランドの服を着て。
髪型もみんな一緒でしたよ。アイドルの真似して。
どこ行っても同じ景色でしたから。
今は多様化・個人化に向かってると思うんですが。
これからは「カオス好き」の人たちが活躍する時代になると思います。
じゃあ「昭和へのあこがれ」は一過性のものですか。
少なくとも令和に生まれた子どもたちは違うと思いますね。
へえ。
昭和には憧れないと思いますよ。
令和に生まれた子供はどの時代に憧れるんでしょう。
やっぱり戦国時代じゃないですか。
戦国時代ですか!?
はい。下剋上の世界ですから。