変と不変の取説 第98回「昭和という幻影」

「変化だ、変化だ、変化が大事だ」とみなさんおっしゃいますが、会社も商品も人生も、「変えなくてはならないもの」があるのと同様、「変わらないもの」「変えてはならないもの」もあるのです。ではその境目は一体どこにあるのか。境目研究家の安田が泉先生にあれやこれや聞いていきます。

 第98回「昭和という幻影」 

前回、第97回は「真実はどこにある?」

安田

「日本史の中でどの時代に憧れますか?どの時代に戻ってみたいですか?」というアンケートがありまして。

昔からありますよ。

安田

その結果が大きく変化してるらしいです。

へえ。そうなんですか。

安田

男だったら戦国時代というイメージじゃないですか?

そうですね。あとは幕末とか。

安田

女性だったらどうですか?

平安時代じゃないですか。

安田

そうなんです。これまでのアンケートでは平安時代とか、大正ロマンに憧れる女性が多かった。

今回はどういう結果なんですか?

安田

今いちばん人気があるのが昭和らしくて。

昭和ですか!

安田

昭和って「戦争で大変だった」というイメージですけど。バブルのイメージが強いんですかね。「昭和を体験したい」「昭和に戻りたい」って人が増えてるらしくて。

私は個人的には、まったく昭和には憧れないですけど。

安田

それは泉さんが昭和を体験してるからじゃないですか。

体験してない世代のアンケートなんですか?

安田

いや違いますね。知ってる人たちも「あの頃はよかった」「あの頃に戻りたい」って。社会全体がエネルギッシュだったからでしょうか。

多様化してないからですよ。

安田

どういう意味ですか?

日本人ってみんな横並びが好きなので。みんなでワーッとやってる感じがいいんでしょうね。昭和には多様化がなかったから。

安田

なるほど。多様化する前の日本が昭和ってことですか。

そうです。超わかりやすいですよね。

安田

1億総中流で。

そう。1億総中流で、みんなで同じ歌を歌ってた。「北酒場をみんなで歌います」みたいな。

安田

みんな同じアイドルの写真を持って、みんなで一戸建てを買って、みんなで受験勉強して。

そうそう。みんなで暴走族やって(笑)

安田

たしかにそうですね。「みんな」の時代でした。

はい。みんなで同じテレビ番組を見て、翌日はそのテレビの話で盛り上がる。

安田

そういうのに憧れるんですかね?いまの若い子は。

YouTubeで昔のアイドルの動画を見たりしますよね。

安田

確かに。演歌とか昭和の歌をやたら聴いてる若者もいます。

『今日から俺は!!』も、あれ、昭和の物語ですからね。

安田

そうですね、たしかに。

めちゃくちゃ人気ありますよ。映画見にいきましたけど、おもしろかったです。

安田

昭和の不良物語ですよね。

そうそう。

安田

いまどき、なかなかいませんよね。あんな人たち(笑)

ツッパリはいないです(笑)

安田

昭和は経済が右肩上がりで、毎年のように初任給が増えていって。「あの頃は本当に人生が輝いてた」という年配者は多いですよ。

自分自身が若かったというのもあるでしょうね。

安田

今の若い子が憧れるのはどうしてでしょう。もしかして日本人全体が老齢化してるから。

そうかもしれませんね。

安田

国家として高齢者になってきてると。

国全体に「あぁ、昔はよかったあ」という空気が蔓延してますね。

安田

明治・大正ってまだまだ中高生みたいな時代で。昭和あたりがいちばん輝いてた、人間でいえば20代みたいなイメージですかね。

東京オリンピックもありましたし。あと、『サザエさん』とか『ちびまる子ちゃん』とか『ドラえもん』とかも、ぜんぶ昭和じゃないですか。

安田

確かに。

いまだに視聴率がそこそこあるわけで。やっぱり、ああいう世界観が好きなんですよ。

安田

日曜日の夕方になると、家族みんなでサザエさんを見てましたよね。

あの世界観でまだ続いてるってのがすごいですよ。酒屋のサブちゃんがやってきて。

安田

たしかに。もう、あんな家ありませんもんね。

ないですよ。勝手口に酒屋さんが来て「どうも~」みたいな。

安田

そもそもあんなでかい家に住めません(笑)

都内では無理ですね。

安田

現代の閉塞感がつくりだした幻影みたいなものでしょうか。

昭和は楽なんですよ。自分の頭で考えなくても勝手に流れてるので。プールでグルグル回ってる感じ。楽しいじゃないですか、あれ。

安田

楽しいですか?

全員で回ったら流れができるので。それに乗ってるだけで進んで行くんですよ。

安田

中国のプールが今まさにそんな感じですよね。

みんな、ああいうのが好きなんです。私は逆に回るほうが好きでしたけど(笑)

安田

流れに逆行するタイプですね。

あえて逆行するっていう。

安田

僕とか泉さんはそういうタイプですよ。昭和がすごく気持ち悪く感じるタイプ。

はい。気持ち悪いですね。

安田

みんなが同じ番組を見て、みんなが同じ行動をするっていう。

嫌ですね。みんなで同じブランドの服を着て。

安田

髪型もみんな一緒でしたよ。アイドルの真似して。

どこ行っても同じ景色でしたから。

安田

今は多様化・個人化に向かってると思うんですが。

これからは「カオス好き」の人たちが活躍する時代になると思います。

安田

じゃあ「昭和へのあこがれ」は一過性のものですか。

少なくとも令和に生まれた子どもたちは違うと思いますね。

安田

へえ。

昭和には憧れないと思いますよ。

安田

令和に生まれた子供はどの時代に憧れるんでしょう。

やっぱり戦国時代じゃないですか。

安田

戦国時代ですか!?

はい。下剋上の世界ですから。


場活師/泉一也と、境目研究家/安田佳生
変人同士の対談


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第1回:「変わるもの・変わらないもの」
長い間、時間をかけて構築された、感覚や価値観について問い直します。

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