第119回 「システム知識がない病院の末路」
お医者さん
ああああ、ちょっと待って、どうしてレントゲン結果が表示されないの。
お医者さん
せっかく新しいシステムに入れ替えたのに……ああ、どうしよう。
おや、お困りのようですね、先生。
絹川
お医者さん
ああ! あなたは確か、ドクターマスターの絹川さん!
あ、いえ、ドクターマスターではなく、ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしています。
絹川
お医者さん
マスターでもアバターでもいいよ!ちょうどいいところに来てくれた!なぜかレントゲン結果が出なくなっちゃって。ほら、こっち来てなんとかして!
いや先生、個人情報ですからそれはできませんけど、原因はわかっているんですか?
絹川
お医者さん
原因?……ええと、少し前にレントゲンのシステムを入れ替えたんだよ。だいぶ古くなってたから。そしたら今日、いきなり表示されなくなっちゃって。
ああ、なるほど。もしかして先生、レントゲンのメーカーから直でやり取りしてシステム入れたりしました?
絹川
お医者さん
ん? ああ、確かそうだよ。だって、電カル業者を通すと高いんだもの。直で頼んだほうが安くすむって言われて。
ああ、やはり……。ちなみにその取引を進められたのは先生ですか? それとも別のスタッフさんでしょうか。
絹川
お医者さん
いや、事務のおばちゃんにお願いしたんだけど……
その方はシステムに詳しい方なんでしょうか。
絹川
お医者さん
いや、詳しいわけじゃないけど、ほら、私は診察で忙しいからさ。業者とのやり取りはなかなかね。
なるほど、状況がだいぶわかってきました。おそらくいまレントゲン画像が映らないのは、電カルとの連携が切れてしまっているからだと思います。
絹川
お医者さん
え? 電カル? だって入れ替えたのはレントゲンのシステムだよ?
それはそうなんですが、病院のシステムというのは裏側で複雑に連携されているものなんです。その設計・実装は、システムに詳しくないとなかなかできない。だから普通は、レントゲンを含めたシステム全体を、電カルのベンダーさんにまるごとお願いするんです。
絹川
お医者さん
いやだから、そうすると費用が……
仰るとおり費用はかさみます。でも先生、そこは「なぜ」高いかを考えるべきなんです。電カルベンダーはシステム全体がうまく稼働するよう全体を設計するんです。結果、今起きているようなトラブルは起こらない。万が一トラブルが起きても、責任持って対応してくれるでしょう。
絹川
お医者さん
そんな……じゃあ一体どうすれば……
残念ながら、後の祭りというほかありません。今からでも電カルベンダーに声をかけてチェックしてもらうことをおすすめします。
絹川
お医者さん
いや、でも……絹川さん直せないの? やっぱりちょっとこっちへ来てもらって……
ですから先生、それはできませんって。それに、仮に今のトラブルが解決できたとしても、今後また別の問題が起こる可能性は低くないと思います。この時代、システムの知識は必須なんです。
絹川
お医者さん
う〜ん……そうなのか。まあ、実際こうしてトラブルになっているわけだもんね。
そうですね。ともあれ、別にプロフェッショナルレベルの知識を付ける必要はないんです。「そういう組み方をするとあそこでエラーが出るんじゃないか?」と何となく予測できる人がいれば十分です。
絹川
お医者さん
なるほどね……わかったよ。今度出そうとしている求人に、医療システム関連の知識を優遇する旨を付け足してみようかな。
いいと思います!これを機に病院のシステム理解度を上げていきましょう!
絹川
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。