第192回 緩すぎないホワイト企業

この記事について 税金や、助成金、労働法など。法律や規制は、いつの間にか変わっていきます。でもそれは社会的要請などではないのです。そこには明確な意図があります。誰が、どのような意図を持って、ルールを書き換えようとしているのか。意図を読み解けば、未来が見えてきます。

第192回「緩すぎないホワイト企業」


安田

見ましたか?緩い職場のニュース。

久野

あれすごいですよね。

安田

職場が緩くなったことで若手が離職してるそうで。

久野

はい。どうしたらいいか、もう分からないです(笑)

安田

今までは逆でしたけど。厳しすぎる会社がブラックと言われて、人が来なくなって、みんなホワイト企業を目指すようになって。

久野

そうなんですよ。社員に優しくて、無理に残業させず、お酒にも付き合わなくていい。

安田

そしたら若手が「こんな緩いところでは成長できない」と不安になって辞めていく。

久野

どうしたらいいんですかね。

安田

厳しくするしかないですよ。上司や先輩の指導が「厳しいと感じない」「ほとんど感じない」という人が6割もいるそうですから。

久野

とは言え、ハラスメントの研修もやってますから。嫌なことはもちろん言えないし、詰める行為もできないし。

安田

詰めなくていいんだったら、上司も楽ですよね。

久野

それが嫌で辞める人もいます。

安田

詰めるのも嫌な仕事ですからね。ストレスもあるでしょうし。

久野

でも売り上げ目標って、未達の人がちょっと嫌な気持ちにならないと。さすがに会社としては成立してないというか。

安田

そうですよね。社長はたまったものじゃないでしょう。

久野

稼いでない人にも何も言えないし、何も問題にならないっていう。

安田

業績が下がるのも当然かも知れませんね。

久野

そういう状態をつくることに、ここ数年の日本社会はめちゃくちゃパワーをかけてきたんだと思います。

安田

なぜそんなことをしたんでしょう。

久野

いわゆる働き方改革ですね。どんな人でも仕組みで業績が上げられるようにしていこうと。

安田

そういう仕組みを考えるのが経営者の仕事ですか。

久野

ある一定の給与までは、誰がやっても払えるような仕組みが必要ですね。

安田

真面目に8時間働いてくれたら、誰がやっても成果が出る仕組みにすると。

久野

それが働き方改革の大きな目的です。

安田

それを実現すると、社員は「自分の成長」が不安になって辞めていく。

久野

たぶん意欲が高い人ほど辞めるでしょうね。

安田

やってもやらなくても同じだったら、そうなりますよ。

久野

そんなに前向きじゃない人にとっては、いい流れなんでしょうけど。

安田

たとえば公務員は1級とか2級とか分かれてるじゃないですか。出世コースに行く人は最初から違う。ああいうふうに分けちゃったらどうなんですか。

久野

1級社員、2級社員、3級社員みたいに分けるってことですか。

安田

はい。3級は誰も怒らないし怒られない。言われた通りのことやってればそれでいい。入社試験で分けてしまうのは法的に駄目なんですか。

久野

ちゃんと入口が分かれてればいいんじゃないですかね。世界のスタンダードはそうですから。

安田

ですよね。入口からして違いますもんね。

久野

はい。「成果上がらなかったら辞めてくれ」という社員もいれば、「やることだけやってくれればいいよ」という社員もいる。ジョブ型ってそういうことなので。

安田

久野さんの会社で1級、2級を分けてみてくださいよ。

久野

全員が2級を希望したら心が折れそう(笑)

安田

今はそっちの方がマジョリティかも知れませんね。

久野

1級を希望する人のほうがレアでしょうね。

安田

国民の多くが2級、3級を希望してたら、そりゃあ2級国、3級国になりますよ。

久野

経営者も怖くて「お前やる気あるか」って聞けないですよ。

安田

さすがに「あります」とは言うでしょう(笑)

久野

言うんだけど「本心は3級です」みたいな。

安田

給料が増えても「管理職になりたくない」って人の方が多いらしいです。

久野

あれ言われると社長は心が折れちゃいます。

安田

「稼がなくていい。出世しなくていい」って言われたら、マネジメントしようがないですよね。久野さんはどうしてるんですか。

久野

ちょっと嫌な気分にさせてると思います。

安田

ちょっとぐらい嫌な気分になってもらわないと、経営者はやってられないですよね。

久野

適切な不快感は必要だと思います。それがないと全体が駄目になっていくので。

安田

誰かが詰めるってことですか。

久野

言葉で詰めなくてもいいように、不足感を認識させる仕組みが必要です。

安田

緩いだけではやっぱり成り立ちませんか。

久野

給料をかなり下げないと無理だと思います。

安田

若い人はそこに気がついてるんでしょうか。

久野

会社がいずれ立ち行かなくなると思ってるんでしょう。若い人の方が健全ですよ。国にも会社にも期待できないし、自分を守ってくれるのはスキルだと思ってる。

安田

やっぱりスキルしかないですよね。ということは厳しい会社の人気が逆に出てくる?ちょっとブラックな会社とか。

久野

それはないと思います。ある程度厳しくて、ちゃんと教育してくれるホワイト企業に人が集まる。

安田

「厳しいけど、そんなには厳しくない」みたいな。

久野

定義が難しいですけど。ブラックではない感じですね。

安田

ブラック企業出身の有名な経営者って、結構いますけど。

久野

若いときに「重い責任」を無理やり課されて、長時間働かされることで、得られる経験値ってあるんですよ。

安田

ありますね。確かに。

久野

それが「そこそこいい会社」で体験できるのが一番いいんですけど。一番まずいのはその両方がないところ。

安田

ホワイトでもブラックでもない、グレーな会社ってことですか。

久野

ルーティン業務を、ひたすら責任のない状態で、3年も4年もやらされる。そういう会社がいちばんまずいと思います。

安田

なるほど。

久野

でも結局は自分次第でしょうけど。教育なんて限界がありますから。

安田

自分で成長しようと思わないと、どうしようもないですもんね。

久野

そうなんです。過保護過ぎても独り立ちできないし。

安田

日本は国を挙げて過保護ですけど。

久野

国を挙げて過保護になって、みんながちょっとずつ貧乏になってる感じ。

安田

このままで大丈夫なんでしょうか。

久野

無理ですよ。人生100年もある時代ですから。

安田

どこかで限界が来ますか。

久野

間違いなく来るでしょう。限界突破するためにはどこかで頑張るしかないです。

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久野勝也 (くの まさや) 社会保険労務士法人とうかい 代表 人事労務の専門家として、未来の組織を中小企業経営者と一緒に描き成長を支援している。拠点は愛知県名古屋市。 事務所HP https://www.tokai-sr.jp/  

安田佳生 (やすだ よしお) 1965年生まれ、大阪府出身。2011年に40億円の負債を抱えて株式会社ワイキューブを民事再生。自己破産。1年間の放浪生活の後、境目研究家を名乗り社会復帰。

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