第13回 「忙しいなら、人を減らした方がいい?」
お医者さん
医者というのは大変だな…。患者さんに気を遣い、スタッフに気を遣い、家に帰ったら奥さんに気を遣い…。診察にはやりがいを感じているが、それ以外の時間はけっこうストレスが溜まるんだよな。
お医者さん
かといって自分がリーダシップを取らないと、クリニックは回っていかない。でも、頑張ればそれだけ自分が疲弊する。…これじゃ悪循環だな。
中小企業の社長さんのような言葉ですね。でも、よくわかります。
絹川
お医者さん
中小企業の社長さん? うーん、でも、確かに私は医者であると同時に経営者でもあるからなあ。当たらずも遠からずなのかも。…ところで、あなたは一体?
ドクターアバターの絹川です。お医者さんの様々な相談に乗りながら、「アバター(分身)」としてお手伝いをしています。
絹川
先生のように悩んでいるお医者さん、多いんですよ。中にはいわゆる「モンスター患者」「モンスター社員」もいますしね。
絹川
お医者さん
いや、うちの病院に限ってそんなこと……と言いたいところだけど、確かに難しい患者や社員はいるよね。でも、こういう課題ってなかなか解決法がないんだよなあ。
そうですね。お医者さんも人なら、患者さんや社員さんも人ですからね。
絹川
お医者さん
そうなんだよね。たとえば社員の有給ひとつとっても、「いやこの状況で休まれたら僕が困るのわからない?」って思っちゃうときはあるよね。
わかりますわかります。人手が足りなければ結局お医者さん自身がその穴埋めをすることになりますもんね。一方で、代わりがいないからお医者さん自身は有給なんて取れないし。
絹川
お医者さん
そうなんだよ!僕だって有給取りたいよ!
先生、いっそのこと社員を減らしてみませんか?
絹川
お医者さん
……いやいや、あなた一体何を聞いてたんです? 人手が足りないから大変だって話をしているのに。
いや先生、こう考えてみてください。因果関係は、もしかしたら逆だったんじゃないかと。
絹川
お医者さん
因果関係? どういうこと?
つまり、「忙しいから人を雇っている」のではなく、実際は「人を雇っているから忙しい」んじゃないかということです。
絹川
お医者さん
……いや、意味がわからないよ。忙しいから社員を増やすんじゃないか。なんで社員を増やすと忙しくなるんだよ。
シンプルな話です。人が増えれば人件費がかかります。つまりその分、固定費が増えるというわけです。だから自然と、「稼がなければならない金額」も増える。忙しい時期はそれでも計算は合うでしょう。でも、閑散期になった途端、彼らの人件費は感覚的には「負債」になってくる。
絹川
お医者さん
う……まあ、確かにそういう感覚もないことはない……けど。
患者さんの数が減って、逆に社員が余るような状況になっても、人件費が減ることはありません。そうなると経営者というのは、「少しでもモトを取ろう」と、新たな仕事を作って社員に与えがちなんです。
絹川
お医者さん
ま、まあ、ぼんやり過ごされているよりはマシだからね…。
そうなんです。結果、どんどん「必要のない仕事」が増えていく。さてそんな中、また繁忙期がやって来たらどうでしょう。急に患者さんが増えたら?
絹川
お医者さん
あ…
そうなんです。社員さんたちは既に「必要のない仕事」でパンパンになっているから、患者さんの増加に対応できない。結果、先生はこう決断せざるを得ない。「仕方ない、新しい社員を採用するか」。…それからは負のループです。
絹川
お医者さん
なるほど…でも…じゃあどうすれば…
まず、「売上」で判断するのをやめることです。重要なのは売上の金額ではなく、「利益」です。
絹川
お医者さん
「利益」…
つまり、売上が上がっても、経費が倍になってしまったら利益はマイナスになってしまう。逆に、売上は前より下がっても、経費が半分になっていれば手元に残る利益は増えている。
絹川
お医者さん
確かにそうだ。…そうか、それであなたは「社員を減らせ」と。
そうなんです。まずは業務を棚卸しし、「無駄な仕事」を排除する。その中で「本当に必要な仕事」をするのには何人の社員がいるのかを計算する。
絹川
お医者さん
なるほど。そうすればもしかしたら、今ほどの人数は必要ないという結果になるのかもしれない。そうなれば経費が削減できるから、利益率は自然と上がる…
そうなんです。売上をアップさせることに躍起になって、利益をどんどん減らしている病院もあります。重要なのは、「売上主義」から「利益主義」へと意識を変えることなんです。
絹川
医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。
著者:ドクターアバター 絹川 裕康
株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。