「“時代に合った経営”は本当に必要?」〜お医者さんは、なやんでる。 第92回〜

第92回 「“時代に合った経営”は本当に必要?」

お医者さん
お医者さん
医療のデジタル化、オンライン診療、クラウドの活用……最近はそんな話ばかり聞こえるな。知り合いの病院もついにネット予約システムを導入したらしいし。
お医者さん
お医者さん
それに比べると、ウチは昔から何も変わっていない。もっと今の時代に合った経営をしていかないといけないんだろうが……でも、何をどうしたらいいのやら。
お悩みのようですね、先生。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ん? ああ、あなたは確か絹川さん。ドクターアバター、でしたっけ。医者の分身、とかいう。
ご無沙汰しております! 相変わらずいろいろな病院で、お医者さんの相談に乗っています。先生のように悩まれている方、多いですよ。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
そうだろうね。なんとかしなければならないのはわかるが、具体的な案はなかなか出てこない。私のように親から病院を引き継いだ人間には、特にそうだろうが。
仰る通り、歴史ある病院の二代目三代目の方に顕著ですね。医師としての現場経験は長いけれど、いわゆる「経営」についてじっくり考えた経験が少ない。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ああ、ウチもまさにそういう感じだね。幸いなことに患者さんも減っていないし、売上的にも安定してる。だからあまり「経営」なんて考えない。
お医者さん
お医者さん
……とはいえ、さすがにそろそろ考えないとな。新しいサービスとか技術とかを取り入れて、もっと今風の病院にしないと。絹川さんもそう思うでしょう?
いえ、そうでもないですよ。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
え?
私としては、先生の病院は今まで通りのやり方で大丈夫な気がします。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
なんだか意外な答えだな。あなたのような立場の方なら、「最新のシステムを入れなきゃダメです!」なんて言いそうなのに。
そういうケースもありますけれど、先生の病院には必要ないかな、と。私から見て先生の病院は、既にしっかりした価値を提供できています。すなわち、「情熱とホスピタリティ」です。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
情熱と、ホスピタリティ?
ええ。先生の病院の患者さんがずっと減らないのは、たまたまではありません。患者さん一人ひとりに真剣に向き合い、症状だけでなく感情にも寄り添った診察を行う。そんな先生に価値を感じて皆さん通っているんです。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ええ……ただ近いから来てるんだと思うよ。
きっかけはそうだったとしても、嫌な先生だったらリピートはしませんよ。それに、現代の医療はそういった気持の部分をおろそかにする傾向がある。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ん? どういうこと?
効率化とか売上とかばかりを気にするあまり、現場が過剰にシステマチックになってしまい、結果患者が離れてしまう、みたいなケースも少なくないということです。最新の電子カルテを導入した結果、医師はPCにかじりついて患者の目を見もしない。そんな話もよく聞きます。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ああ、なるほど。確かに私がデジタルが苦手なのは、人と人とのやり取りが希薄になる気がするからなんだよな。
そういう側面は実際あると思いますが、ともあれ医療の世界は確実にそちらに向かっています。多くの病院が既にデジタルに舵を切っている。そうするとどうなるかというと、相対的に先生の持つ価値の希少性が高まっていく。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
なるほどね。「変わらないことが価値」という見方もあるということか。
飲食店と同じなんですよね。価格の高い飲食店は必ずしも「最新の料理」を出しているわけじゃない。むしろ格安店ほど流行に敏感だとも言える。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
ああ、それはわかりやすい例えだ(笑)。店の雰囲気もそうだよね、流行っているお店は人が多くてなかなかくつろげないけど、高級店はゆっくりサービスを受けられるものね。
そうなんです。ですから先生の病院は、基本的には今まで通りでいいと思いますよ。変えるとすれば、先生の価値がさらに高まるような、あるいはその価値がより多くの方に伝わるような仕組みづくり、というところでしょう。
絹川
絹川
お医者さん
お医者さん
そうだね。しっくりこないものを無理に導入するより、自分の強みや信念を高めていく方向の方が健康的だね。うん、ありがとう。なんとなく自信が出てきたよ。また相談に乗ってもらってもいいかな。
もちろんです!
絹川
絹川

医療エンジニアとして多くの病院に関わり、お医者さんのなやみを聞きまくってきた絹川裕康によるコラム。


著者:ドクターアバター 絹川 裕康

株式会社ザイデフロス代表取締役。電子カルテ導入のスペシャリストとして、大規模総合病院から個人クリニックまでを幅広く担当。エンジニアには珍しく大の「お喋り好き」で、いつの間にかお医者さんの相談相手になってしまう。2020年、なやめるお医者さんたちを”分身”としてサポートする「ドクターアバター」としての活動をスタート。

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